第1085話 失踪宣告
相続人が行方不明で7年以上にわたって生死が不明なときには、失踪宣告を行うことで、その人を「もう死んだもの」として扱い、遺産分割協議を進めることができます。宣告された人は相続人から除外され、その人に法定相続人がいるなら、そちらが協議に参加することになります。
もし仮にその後、失踪宣告を受けていた相続人がひょっこり出てきて、本人が失踪宣告の取り消しを行ったとしても、遺産分割協議をやり直す必要はありません。
「実は生きているのを知りながら協議を進めた」というように協議を進めた側に悪意がない限り、失踪中に行われた法律行為に影響が及ぶことはありません。
ただし他の相続人が遺産分割で得た財産を返さなくていいかといえば、そうではありません。民法においては、「失踪の宣告によって財産を得たものは、その取り消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う」と定められているからです。
この「現に利益を受けている限度」というのが曲者で、例えば相続した財産を全額ギャンブルで浪費してしまったような場合は、この現存利益が存在しないとして返す必要がありません。しかし生活費として使ったような場合は、「失踪宣告によって得たお金を使った分、自分の財産を使っていない」として、利益が他に形を変えて今も残っているものと解され、返還する義務が生じることになります。この現存利益の解釈は非常に難しいので、専門家に相談することをお勧めします。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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