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 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から約2年半が経過しています。戦争が長引くにつれ戦費も膨張の一途をたどり、どちらの国にとっても国家財政に深刻な影響が生じています。過去の歴史を紐解いても、戦争は人的被害のみならず、破壊的な経済的損失を国家に与えてきました。その損失を埋めるべく利用されるのは常に「税」であり、その負担を背負わされるのは国民です。

 ロシアのプーチン大統領は5月、大統領就任式で宣誓し、通算5期目に入りました。就任後、真っ先にプーチン大統領が打ち出したのが、増税を盛り込んだ税制改正案です。これは5月末に承認され、来年から適用されます。個人所得税が最高税率15%だったものが22%に引き上げられ、法人税は20%の税率を25%へと引き上げます。これにより国家予算の増収は約4兆5千億円となる見通しです。

 プーチン大統領は増税の理由を「高所得者や企業がより公平に税を負担するため」と説明しましたが、背景には長期化するウクライナ侵攻による財源不足があることは間違いありません。米国防省が試算したところでは、ロシアが費やした戦費はすでに約31兆7千億円に上り、戦争による経済的な損失は約200兆円にもなります。

 戦争にはとにかくお金がかかります。第2次世界大戦で日本が費やしたお金は、当時の金額で約7600億円と推定されています。言い換えると、日中戦争開戦当時の国家予算の約280倍に当たります。今のお金で2京8千兆円が投じられました。

 その財源として、戦時国債を発行しましたが、それだけでは全然足りず、最終的には税金を引き上げ投入しました。

 米国においても第1次世界大戦のころから各税目に増税傾向がみられ、第2次世界大戦時の所得税の最高税率は94%でピークに達しました。歳入に占める所得税と法人税の割合は戦争前の1940年度には39%だったのが、44年度には79%と倍増しています。

 所得税の徴収方法の一つである源泉徴収制度も18世紀の英国で、ナポレオン戦争の戦費調達が目的でした。

 日本では「相続税」が日露戦争の戦費調達を目的にしてスタートした制度であることは有名な話です。

 日本は第2次世界大戦でも苛烈な増税を実施しました。1937年には17億円だった租税収入が、44年度には127億円となり7.5倍に増加しました。この増税はあらゆる税目におよび、国民一人当たりの租税負担は、数年間で10倍に増加しています。

 また税制を使った国民負担増は、戦争中だけではなく、戦後も続きます。

 日本では終戦翌年に、戦後処理のための戦時補償特別税が導入されました。これは戦時中に国が後から払うといって半強制的に結んだ徴用契約や、徴用後に沈没させられた船舶の補償などについて100%の課税、つまり請求権と同額の税を課すというものでした。結果的に企業経営者たちは滅私奉公を仇でかえされたかたちになっています。

 また同年では、軍需産業などで利益を得た富裕層をターゲットにした財産税も導入しています。当時の金額で10万円を超える財産を持つ人に課され、その最高税率はなんと90%に上ります。なお当時の10万円は現在でいう1千万円~2千万円ほどですので、決して超リッチな層のみが対象となったわけではありません。

 税は国家の姿を映す鏡といわれますが、戦争という暴力がおこれば、守られるべき国民の財産を税という手段を使って奪い去る力をもちあわせていることを忘れてはいけません。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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