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 相続税の節税の基本は、やはり生前贈与でしょう。毎年110万円までは無税で贈与できることは広く知られています。多くの方が理解されているとは思いますが、意外な落とし穴があります。そこであらためて、生前贈与の注意点を見ていきます。

 生前贈与は、当事者の一方が財産をタダであげる意思を示し、相手がそれを承諾することで成立します。つまり、あげる側ともらう側で合意することが必要です。当事者の一方に財産をあげる意思があっても、相手がそれを知らなければ贈与は成立しません。当たり前のことのように思われますが、このことを正しく理解していないことが多く、税務署に贈与を認められない原因ともなっています。

 税務署に認められないケースとして、名義預金があります。名義預金の名義とは、銀行口座の名義が、実際の所有者とは異なることを意味します。親が子のために、子の名義で銀行口座を開設して、勝手に預金することがあります。しかし、子がそのことを知らなかったら、たとえ子の名義であってもその預金は親の遺産とされます。なぜなら、子がその事実を知らない(承諾していない)からです。このケースでは、せっかく親が生前に子の名義の銀行口座に積み立てていても、相続税の計算では遺産に含めて計算することになります。

 名義預金とされないためには、まず贈与が当事者合意のもとに成立したことを示す必要があります。そのために贈与契約書を作成します。そしてお互いが自書して一方的に作成したと言われないようにします。また、贈与を受けた側が生活費の支払いに使っている銀行口座への振り込みであれば問題ありませんが、この贈与のために作った新しい銀行口座であれば、預金通帳と印鑑は贈与を受けた側が管理することも大切です。贈与をした側が通帳も印鑑も管理していると、贈与を受けた側がその銀行口座を自由に使うことができないため、名義預金とされることになります。ちなみに、祖父母から孫へ贈与する場合など、孫が未成年の場合には孫の親が親権者(法定代理人)として贈与契約書に自署します。

 たとえ贈与を行い将来の遺産を減らすことができたとしても基本的に生前の3年間分は相続税がかかります。これは、相続直前の駆け込みで贈与をして、相続税を過度に減らすことを防止するためです。亡くなる直前に慌てて贈与しても、相続税に関しては、意味を持ちません。

 この相続財産へ持ち戻されるのには例外があり、相続によって遺産を取得しないものについては、相続財産に持ち戻す必要はありません。

 あえて111万円を贈与して1千円の贈与税を納めて、税務署に贈与の事実を認めさせることもできます。

 110万円を結果として10年間贈与すると1100万円が無税で贈与できることになります。しかし、毎年贈与契約書を作成することが面倒になり、「110万円を10年間にわたり贈与する」という契約書を作成してしまいますと、初年度に1100万円に一定の率をかけた金額に対して贈与税がかかってしまいます。110万円を10年間贈与することが契約されたということは、贈与契約自体は初年度に成立しており、実際の送金が単に10年間に分割して行われているにすぎません。 これを連年贈与といいます。あげる方ももらう方も、結果として1100万円が贈与されるのは変わりませんが、初年度に110万円が10年間にわたり贈与することが決まっていたと税務署で判断されると、初年度にまとめて贈与税がかかってしまいます。そのため、贈与契約書は毎年あらためて作成し、毎年110万円の贈与が成立したことを残すようにします。

 実際の現場では、親が子に贈与すると、贈与するときは感謝されますが、すぐにそれも薄れてしまうということが聞かれます。そういう意味からも、毎年あらためて贈与する時期などを検討する方が、よいかもしれません。

 贈与は毎年110万円基礎控除をつかえますので、早く始めた方が多くの贈与ができます。しかし、子や孫があまりに小さいうちに贈与を始めると、社会に出るころにはそれなりの預金を持つことになります。すると、社会に出て仕事を覚える一番苦しいときに。勤労意欲をそぐことになりかねません。かといって、本人に贈与したことを知らせずにおくと、名義預金になってしまうので、悩ましい問題となります。なぜ生前贈与をしているのかを正しく理解してもらわなければなりません。

 通常は親から子へ、子から孫へと世代ごとに相続され、その都度相続税がかかります。そこで親から孫へ一世代飛ばして相続して相続税がかかる回数を減らすことも可能です。しかし基本的に孫への相続税は2割加算される仕組みとなっています。しかし、贈与にはこの2割加算の仕組みがないため、孫への贈与は、一世代飛ばしの効果があり節税には有効です。

 20年間連れ添った夫婦間での自宅や自宅を取得するためのお金は2000万円まで無税で贈与することができます。この制度は、相続の直前まで利用でき、相続前3年以内の持ち戻しの対象にもなっていないため、被相続人の意識がはっきりしていれば、ぎりぎりまで検討することができます。

 また、教育資金として30歳未満の子や孫に対して、1500万円まで無税で贈与することができます。この制度は相続直前まで利用でき、相続前3年以内の持ち戻しの対象にもなっていないため、被相続人の意識がはっきりしているなら、ぎりぎりまで検討することができます。ただし、こちらは銀行や証券会社などの手続きが必要になるため、必要な手続きや日数が決められていることに注意が必要です。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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