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 国税庁が8月5日に発表した国税を期限通りに払えない「滞納」の最新状況では、年度末の滞納残高が22年ぶりに増加に転じました。国はその理由について、コロナ禍にあって督促などを抑制したことなどが影響したと説明しましたが、果たして要因はそれだけなのでしょうか?今まで滞納残高が継続して減少してきた中で、新規滞納が大きく上に触れたケースは過去に数度あり、それらには「消費税増税」という一つの共通点があります。

 国税庁が発表した最新の国税滞納状況によれば、2020年度末時点で国税の滞納残高は8286億円で、前年度から9.7%増加しました。ピーク時の1998年から比べますと3割ほどですが、22年ぶりの増加に転じた結果となります。

 また2020年度に新たに発生した国税の滞納額は5916億円で、こちらも前年度より7%増加しています。

 滞納残高が増えた理由について国税庁は

①新型コロナ対策の納税猶予の特例制度に関する事務を優先し、電話での督促や差し押さえなどの滞納整理業務を抑制したこと

②新型コロナの猶予特例が多く利用され、2019年度分の新規発生が2020年度にずれこんだこと

などと説明しています。確かにコロナ禍により国税当局も業務を大幅に制限されており、対面を避けられない差押などが思うように行われなかったのは事実でしょう。またコロナ禍の本格化を受けて、国は昨年2月~3月に予定されていた2019年度の確定申告を期限延長し、納税猶予の適用などを実施。その結果、2019年度の新規滞納額では前年度比1割減となっていました。それらの納期限が訪れたことが、今年の滞納増の一因となっていることは確かでしょう。

 しかしそれだけで理由の全てが説明できるのでしょうか?

 滞納実績を詳しくみてみますと、滞納残高の税目別では、所得税が一番多く3342億円で、次に消費税が3245億円と続きます。そして法人税1081億円、相続税561億円と続きます。これを前年度からの伸び率からみると、所得税が0.4%に対して消費税が21.6%と大きな伸びを示しています。

 新規滞納発生額でみても、所得税1353億円、法人税670億円、相続税247億円と比べて消費税は2879億円となっており、税滞納のメインは消費税が占めています。

 その理由として考えられるのが、2019年10月に引き上げられた消費税率10%の影響です。

 今までの国税の新規滞納発生額をみてみても、消費税率が引き上げられた時期に当たる1998年と2015年には、いずれも、滞納税額が増えています。

 ここで注目したいのが、増税後の滞納の「山」は、増加に転じて2年目に訪れる点です。これは増税後、引き上げられた新税率が企業の事業年度に反映されるまでのタイムログや、増税負担が蓄積する2年目に深刻なダメージを与えるからかもしれません。

 なぜ数ある税目の内、消費税の滞納が特に多いのか。それは消費税の持つ「預り金」という性質と赤字決算であっても納税義務が生じる点にあります。経営が苦しい事業者ほど、預り金である消費税を運転資金に回し、結果滞納せざるを得ない状況に陥ります。

 こうした消費税の滞納リスクは、2019年の増税時に導入された複数税率制度によってますます増大することになります。

 例えば農業や畜産業では、仕入れにかかる費用は10%の税率であるのに対して、出荷する段階では食材に該当する為、軽減税率8%の売上となります。このことは資金繰りに悪影響を及ぼし、日頃の資金繰りが厳しくなるほど事業縮小につながっていくことになります。

 また逆のケースでは、外食産業では8%で仕入れて10%で売るため資金繰り的には潤いますが、納税資金を日頃から意識しておかないと、予想外の税負担を課され、滞納につながりかねません。

 国税を滞納しますと、納期限から50日以内に督促状が届きます。この時点で延滞税などは当然かかります。督促状の発送から10日を経過した時点で、まだ税金が納められていないと、法律上は財産の差し押さえが認められています。コロナ禍ということもあり、今は納税猶予に関して柔軟な対応が取られていますが、それでも無条件での滞納は認められていません。

 国税徴収法8条では、国税優先の原則として「国税は、納税者の総財産について、別段の定めがあるものを除き、すべての公課はその他の債権に先だって徴収する」との規定を置いています。つまり、取引先が滞納すると国税が第一の債権者となり、こちらへの支払いは二の次となります。

 重負担となっている消費税の減税を野党だけでなく与党内にも一時的に消費税を凍結し、国民の家計保護と経済の回復を優先すべきとの意見は少なくありません。

 しかし政府は、数度の増税により今や全税収のうちほぼ半分を占める基幹税となった消費税を引き下げるつもりはないようです。

 これまでも政府首脳からは

「社会保障の財源になっている」(菅義偉元首相)

「一回下げると次はいつ上げるんだ」(麻生太郎元財務大臣)

「いろいろな政府的犠牲を払いながら今日まで増税をやってきた」(甘利明元自民党税制調査会長)

 といった発言が出ています。

 そうした与党の〝努力〟の甲斐があってか、今年7月に公表された2020年度決算概要では、一般会計の税収は60兆8216億円と60兆円の大台に乗り、過去最高を記録しました。財務省の資料「所得・消費・資産等の税収構成比の推移」によりますと、2021年度の税収に占める消費税の割合は、実に44.7%に上ります。これらを受けて麻生氏は「60.8兆円は史上空前。これからどうなっていくのかはよくわかりませんけど、いずれにしても景気としては悪い方向ではない」と胸を張りました。

 しかし税の新規滞納者が増えるということは、それだけ税金を納めるにも苦しんでいる納税者がいるということです。一方、赤字法人でも納めなければならない消費税によって、国の財布は過去最高に潤っている現状があります。「社会保障を持続させるため」というお題目の元、今現実に苦しんでいる国民をかえりみない政府の姿勢は、コロナ後の経済対策に腐心する一方で医療崩壊をみすみす招いた新型コロナ対策の在り方とダブって見えます。不況により納税したくてもできない事業者や一般国民、そして不況だからこそ財源を確保したい国とのせめぎあいが今後も続きそうです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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