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(1)遺言のある相続

 

 公正証書遺言でも自筆証書遺言でも、基本的には遺言がある場合には、亡くなった人、つまりは被相続人の意思がそこに反映されます。そのため、遺言の中身が最も優先されます。遺言の中には誰に何を相続させるのかが書いてありますので、それに基づいて手続きを行います。

 不動産では遺言の内容に基づいて相続登記を行い、預金についても遺言に記載された内容に基づいて、各種預金口座から解約した金額をそれぞれの相続人に割り振っていきます。

 つまり遺言のある相続では、遺産分割協議のプロセスがいりませんので、もめごとなく、手続きがスムーズに進みます。

 また遺言を用意しておけば、相続人以外にも財産を遺贈することができます。身の回りの世話をしてくれた親族外の人に財産を残すこともできます。もしくは公益法人などに寄付をして、遺産を有効に使ってもらうという選択肢もあります。相続人ではない孫や子の配偶者に遺産を相続させる内容の遺言を作成することもあります。

 

(2)遺言のない相続

 

 遺言がなければ、誰が何を相続するかを遺産分割協議で決めなければなりません。そのため遺産分割協議の前段階で、財産目録を詳細に作る必要があります。被相続人が亡くなってから実際に相続人が遺産を手にするまでの期間について、遺言を残しているケースと比較してかなり長期間になることを覚悟しなければなりません。

 また相続人以外の人は遺産分割協議書に参加することはできません。ですから代襲していない孫や子の配偶者などは、遺産分割協議に参加することができません。

 遺産分割協議が整って初めて誰が何を相続するのかが決まりますので、書面にして署名と捺印をし、その内容でもって金融機関の口座解約や名義変更、不動産の登記などを行っていくことになります。

 仮に相続税の申告期限内に財産が相続人の間で決められていない場合には、法定相続分で財産を分けたものとして相続税を計算します。申告が期限後になってしまった場合には、無申告加算税、延滞税のような加算税がかかります。

 このように期限内に財産が分けられていない状態の申告を未分割申告といいます。未分割申告では、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の減額などの各種特例を受けることができません。当然、税額負担も高額になりますし、なにしろ協議も長期間にわたりますので、金銭的にも精神的にも負担はかなり重くなります。

 遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所等で調停を行うか、もしくは裁判を起こすことが最終手段として考えられます。そうなるとコストも時間もかかることになります。

 所定の手続き(申告期限後の3年以内の分割見込書の提出)をしておけば、協議が整い次第、通常は各種特例を受けることにより、納めた税金を還付することになります。

 

(3)遺言の準備をした方がよいケース

 

 親族関係がよくないため揉め事が発生しそう、もしくはもうすでに発生しているような場合には、遺産分割協議が難航されることが予想されますので、遺言は必要と考えます。また遺産分割協議は人数が増えるほど、まとまりに時間がかかりますので、親族が多い場合にも遺言を残しておく方が無難です。そしてあったこともないような親族関係が遠い関係にあるような場合にも、やはり遺言を残してあげた方が良いと思います。

 また自分の世話をよくしてもらった人や面倒を見てもらった人に財産を残したければ遺言をしなければなりません。

 遺産分協議が整わなければ、基本的に財産が塩漬けになりますので、使うこともできませんし、処分することもできません。そういったことを考慮して遺言を残すかどうかを検討したいところです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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