第1096話 子ども・子育て拠出金
通常国会が6月23日に閉会しましたが、今国会は政治資金を巡る裏金・脱税疑惑で揺れました。税金関連で話題となったテーマは定額減税と子ども・子育て支援金、そしてステルス増税の典型例ともいえる森林環境税くらいのもので、特筆するべき重要な議論は最後までなされないままでした。子ども・子育て支援金の拠出額についての議論では、担当大臣の答弁が二転三転。首相もただ「国民の負担は実質ゼロ」と繰り返すだけで押し切ったかたちです。生活者の懐に直接打撃を与える政策だけに、国民の関心も当然高くなります。中小事業者は以前から「少子化対策」として少なくない〝税〟を納め続けてきました。しかし以外にもそのことに気づいていない経営者がいかに多いことか・・・。
中小事業者が「重い負担」だと感じているのは、税金よりもむしろ年金・健康保険などの社会保険料です。この〝第2の税金〟とも呼ばれる社会保険料の負担は年々増加しています。従業員とも「痛み」を分け合う労使折半の負担ならまだしも、「全額事業者負担」の〝税〟も存在するのだからたまったものではありません。
その代表格が、子ども・子育て〝拠出金〟です。そして今国会で成立したのは子ども・子育て〝支援金〟。こちらは、児童手当の給付拡大などに充てるための財源として、公的医療保険制度を通じて「家計」と「事業者」の双方で負担していくものです。現役世代の労働者に限らず、リタイア層からも、支援される側の若年層からも、そして事業者からも徴収するので、国民の関心はどうしても「いったい自分はいくら負担するのか」といったことばかりに集中しました。
そしてこの「支援金」なるものが「少子化・子育て対策」の財源を確保するためにはじめての負担だといわんばかりに宣伝されています。しかし中小事業者は、これよりはるか50年以上前から「拠出金」なる名目で「子育て財源」を負担してきています。意外なことにこの負担の事実を認識している中小事業者は驚くほど少ないです。
この「拠出金」は、子育て支援、児童手当の支給に要する費用等の一部に充てるために〝事業者〟から徴収する拠出金です。今国会で成立した「支援金」とはほぼ同じ目的なのだから、これは〝二重〟に課税していることになります。アスベスト被害対策の〝一般拠出金〟と同様、全額が事業者負担です。
公的医療保険制度を通じて徴収する、つまり健康保険料に上乗せして取られることになる「支援金」との違いは、この「拠出金」が従業員の厚生年金保険料に上乗せされ、その全額を事業者だけで負担するものだということ。日本年金機構が徴収していますが、社会保険料ではなく、税金です。事業者は今後、年金からも健康保険からも二重に徴収されることになります。
「拠出金」は以前、「児童手当拠出金」という名称でした。その歴史は長く、1972年からスタートしました。それに加えてこの「支援金」の負担です。歴代政権はこの50年間に、いったいどのような政策を実施してきたのでしょうか。財源を確保していたにもかかわらず、効果的な政策を打ち出すことができずに今日の状況を招いているのですからこの「拠出金」を無駄遣いしてきただけなのではないでしょうか。
事業者の負担は、従業員ごとの厚生年金保険料を算出する標準報酬月額に拠出金率を乗じて計算された金額です。拠出金率は、2014年度までは0.15%でしたが、「子ども・子育て支援改正法」が施行された2015年に現在の名称に変更。料率は2018年度に0.29%、2019年度に0.34%と段階的に引き上げられ、現在は0.36%となっています。しかもこれだけでは物足りないとでもいうのか「政令によって0.45%までは引き上げ可能」とされています。乱暴極まりない計算の仕方ですが、仮に標準報酬月額30万円の従業員を50年間雇用してきた事業者の場合ですと、その負担額は概算で2700万円程度となります。
拠出金は年金保険料とともに日本年金機構が徴収し、年金特別会計の「子ども・子育て支援勘定」で経理されます。2022年度は拠出金として徴収した6500億円のほか、一般会計からの受入額が2兆4900億円ありました。これを財源として、児童手当交付金1兆2600億円、子ども・子育て支援推進費1兆6300億円が措置されています。
政策に必要な財源ならば堂々と「増税」で集めたらいいのですが、それが可能ではないのでしょう。しかしだからといって税金と気づかれないように集める形での〝増税〟は、あまりにも国民をだます詐欺的で姑息な手段だといわざるを得ません。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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