第1127話 神社仏閣の税務調査

昔から「坊主丸儲け」という言葉があるように、税金面では優遇されていると思われがちな宗教法人。ですが税務署はそんなに甘くありません。それどころか一般の企業に比べても、神社仏閣は調査官にとってターゲットにされやすくなっています。
「坊主丸儲け」といわれるゆえんは、宗教法人が、宗教活動を目的として行う公益的な事業には、法人税や固定資産税が課されないことにあります。この点から見れば、「宗教法人は税制面上優遇されている」というのは事実ですが、しかしそれは税務調査を免れるということではありません。逆に税優遇を受けて「財を蓄えている」と国税からにらまれ、調査のターゲットになっています。
実際に税務調査に入られた埼玉県のある寺院では、ある朝、事前通知もなく、近くの税務署から1人の調査官がやってきて、お寺の行事予定表を確認し、大きな法要や季節ごとの行事などのイベント日時を調べました。さらに従業員への給与の源泉徴収税額のデータを過去3期分閲覧し、その他にも布施の記録なども事細かに聞き取り、こう切り出しました。
「光熱費が多額に計上されていますが、このうち私用と業務用の按分の根拠を教えてください」
私用か業務用か、紛らわしい部分をざっくり分けてはいたものの、厳密な根拠といわれると難しいもの。いろいろと突っ込まれるうちに住職は自信がなくなり、最終的には宗教法人のものとして登録していた電話番号から家族がプライベートの電話をかけていたことが決め手となり、更正処分を受けました。同じやり方で更正処分を受け、当初申告では業務用と私用を7対3で按分していたものが、修正後には1対9までひっくり返ったという神社もありました。
寺社に限らず、職と住が混在する業種では、私用と業務用の節目を明確には区分できないことが多くみられます。しかし根拠を示せず私用と認定されてしまえば、加算税が付くことになります。
まず、水道光熱費が集中的に狙われます。カレンダーを調べるのは、寺のイベント日程を見るためです。なぜならその日時には多額の光熱費が計上されなければならないし、実際の帳簿と突合し、矛盾があればそこに突っ込む調査をします。ここで問題なのは、意識的にごまかすつもりがなくても、あやふやな部分があれば調査官に言質を与えたことになり、何らかの更正を受けることになりかねません。
法人税が非課税の宗教法人とはいえ、従業員には給与を支払い、その給与については源泉徴収を行う義務があります。実は、宗教法人の本当のターゲットは法人税ではなく、所得税なのです。過去には京都の大寺院で僧侶への残業代未払いが発覚して問題になったこともあります。この給与と源泉徴収も職住接近の業種への税務調査で狙われやすくなります。
どこまでが従業員の福利厚生で、どこからが給与に当たるのかは、一般企業でも頭を悩ませる問題です。これが住み込み、衣食住付きが当たり前の寺院ともなると、さらにその境界線はあいまいとなります。給与計上して源泉徴収すべきところをしていなければ、当然申告漏れとみなされ、加算税のペナルティーが付くことになります。
仮に申告漏れの意図がなくとも、職住接近しやすい業種はどうしても私用と業務用、給与と福利厚生の境界線があいまいとなってしまいます。だからこそ調査官にとっては、非違をいくらでも指摘できる材料になるのです。その代表格が神社仏閣というわけです。
ノルマの達成が難しくなる調査官にとってはまさに〝宝の山〟に映るでしょう。この所得税調査に非協力的だと、法人税を狙って税務調査がやってきます。そのために調査官は所得税の調査といいながら、必ず法人税に関する帳簿も隅から隅までチェックします。
では、税務調査に対してどのような防衛策を講じるべきでしょうか。まず大前提として、水道光熱費などの私用と業務用の分別をしっかりすることです。たとえ厳密に分けることが難しくても、按分の根拠を示せるようにしておくことが大事です。また様々なお金の記録を残しておくことも重要となります。
調査官に求められたといっても、檀家の過去帳を見せる必要はありません。2005年に全面施行された個人情報保護法によって、個人情報が載せられた過去帳の提出はきっぱりと拒むことができます。
税務調査は、過度に怖がらずに、会計処理をしっかりとやり、胸を張るべきところで委縮しないことが、最大の税務調査対策といえるでしょう。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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