第1136話 養子縁組による相続税の節税の有効性

2017年1月31日、最高裁が画期的な判決を出しました。相続税の節税を目的とした養子縁組の有効性が争われていた裁判で、最高裁第三小法廷は、「節税目的の養子縁組であっても、ただちに無効になるとは言えない」とする初めての判断を示しています。
法定相続人1人につき基礎控除額が600万円増えるなど、養子縁組には相続税を節税するメリットがあります。 そのため節税効果を狙う富裕層が、孫などと養子縁組するケースは珍しくありません。最高裁の判決は、こうした現状を追認したものとなります。
裁判の経緯はこうです。
2013年に死亡した福島県の男性(当時82歳)は、その前年に当時1歳だった孫(長男の息子)を養子にしました。ですが男性の死後、遺産を巡り男性の長女と次女がこの養子縁組の無効を求めて長男を提訴しました。
男性は2010年3月、福島県や東京都などに所有していた複数の不動産を妻と長男に、金融資産を2人の娘に相続させるために、自筆遺言証書を作成しました。2012年3月には男性の妻が死亡。このとき長男が連れてきた税理士から「長男の息子を養子にすることで節税メリットがある」と説明を受け、税理士の面前で男性は養子縁組に署名押印しました。
このあと、男性と長男の関係が悪化し、男性は2012年10月に養子縁組は長男の勝手な判断によるもので、詳しい説明を受けたことも、署名押印した事実もなく、自分の年齢から考えて養育できる時間も体力もないとし、孫との「養子離縁届」を提出。長男と「離縁」をめぐる訴訟にまで発展しています。この訴訟は2013年6月に男性が死亡するまで続きました。
そして男性の死後は、姉2人との裁判が始まりました。争点は男性に養子縁組の意思があったかどうかです。民法802条では「当事者間に縁組をする意思がないとき」は縁組を無効にできると定めています。一審の東京家裁は、男性が養子縁組の書類に自ら署名していることなどから、養子縁組は有効だと判断しました。ですが二審の東京高裁は長男が税理士を連れて節税メリットを説いたことから、「男性には孫と親子関係を創設する意思がなかった」として養子縁組を無効としています。そして最高裁は「相続税の節税という動機と養子縁組をする意思は併存し得る」としたうえで、節税目的であっても「ただちに民法802条にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』にあたるとはいえない」として長女らの訴えを退けています。また、高裁判決では「縁組には真の親子関係をつくる意思が必要」としていましたが、この点について最高裁判決は言及していません。
この最高裁判決で注意したいのは、節税目的の養子縁組が有効であることを保証しているわけではない点です。「ただちに縁組の意思は否定されない」としているだけで、民法802条に定めている「縁組をする意思」と「節税目的」が矛盾しないことを述べているに過ぎません。ただし節税目的と縁組意志が「併存し得る」と述べている以上、今後は広範囲なケースで養子縁組が認められることになるでしょう。
「どうしても孫に直接財産を遺したい」というのであれば、孫を養子にすることが有効な手段となります。ただし、相続税法では、被相続人の一親等の血族および配偶者以外は、相続税額の2割が加算されることが規定されています。孫養子は、民法では被相続人の一親等の血族になりますが、相続税法ではこれを含まないルールとなっています。つまり2割加算の対象者になるということです。
これに対して、被相続人が子供のいる相手と結婚したケースでは、配偶者は財産を受け取ることができますが、連れ子には相続権がありません。連れ子にも確実に財産を遺したいのならば、養子縁組して実子と同じ扱いにしておかなければなりません。この場合には、2割加算の対象者とはなりません。被相続人の直系卑属が当該被相続人の養子となっている場合に該当しないからです。
最後に養子縁組のリスクについて考えてみます。
まず遺産分割協議が難航する恐れがあります。養子縁組で相続人が増えると、他の相続人の取り分が減ります。
また養子縁組届が受理されると簡単に取り消すことはできません。縁組は原則、養い親・養子の双方が合意しないと解消できないからです。例えば被相続人が娘の配偶者を養子にしたケースでは、娘夫婦が離婚するとトラブルに発展しかねません。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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