第1145話 熟年離婚の税金

離婚総数に占める熟年離婚の割合が高まっています。厚生労働省の人口動態統計によりますと、2022年の同居20年以上の離婚は約3万9千件に上り、全体の23.5%を占め過去最高となりました。ほぼ4組に1組の割合です。今回は、離婚にまつわる税や年金についてまとめてみました。
熟年離婚と若年離婚との大きな違いは、離婚時に財産が一定規模になっているケースがあることと、年金を視野に入れなくてはならないことです。若年離婚に付き物の子供の養育費や浮気などを理由とする慰謝料の問題が少ないかわりに将来の生活費に直結する問題が浮上してきます。
離婚に絡んで動くお金といえば、「財産分与」「慰謝料」「養育費」がトップ3ですが、これらは税法上非課税が原則です。財産分与は夫婦共有の財産から自分の取り分を得ただけであり、慰謝料は相手の不貞などによりマイナスになっていた状態がゼロに戻っただけだとされるからです。養育費については扶養義務に基づく生活費の支払に該当し、利益の享受には当たりません。
ただし、支払額が常識的に見て過大とみなされれば、その部分に贈与税が課されます。また、分与財産が不動産であれば、分与を受けた側は非課税ですが、分与を行う側には譲渡所得税が課されます。
さらに大げんかの末での離婚ではなく、双方が合意の上での離婚であれば、離婚に伴う税制上のリスクも把握しておく必要があります。最近は、籍はそのままに別居を選ぶ夫婦や、籍を抜いて別居はしているものの友人として付き合いを続けている〝卒婚〟もトレンド入りしています。離婚が必ずしも一生の別れではなく、お互いの自由な生き方を認めたうえでの〝ハッピー熟年離婚〟が市民権を得つつあるなかで、離婚のせいで税負担が増えてしまってはたまりません。
そもそも、実父長制の流れを汲む日本の法律は、配偶者への保護が手厚い特徴があり、特に相続税法においては、法律婚の配偶者を優遇しています。その一つが相続税の配偶者控除で、仮に離婚せずに妻が夫を看取ったとしたら、1億6千万円までの遺産には相続税がかかりません。さらに一緒に暮らしてきた家屋も、小規模宅地等の特例を使えば、330㎡までの敷地の評価額は2割に抑えられます。
ところが、離婚したとたん遺贈で財産をもらったとしても、非課税どころか逆に2割増しで相続税を払うことになってしまいます。
さらに、生命保険についても離婚後は配偶者特有の「お得」が消滅します。離婚をすれば、法定相続人から外れはするものの、生命保険はあくまでも契約であるため離婚後の元妻であっても生命保険金を受け取ることはできます。ただし、法定相続人にのみ認められている「500万円×法定相続人の数」という非課税枠は、使えなくなります。
あと、忘れてはならないのが年金です。2007年4月に、離婚時の厚生年金の「合意分割」制度がスタートしました。夫婦の双方が合意していれば、婚姻期間の配偶者の保険料納付実績を按分割合の限度である1/2まで一方に分割できる制度です。あくまでも双方の合意が原則ですが、年金を納めていた夫が妻の要求を突っぱねていれば済む話ではありません。双方が合意に達しない場合には、夫婦の一方が裁判所に申し立てることで、裁判所が按分割合を決定することもできるからです。
さらに来年には夫婦の合意すら不要な「3号分割」制度が始まります。これは同年以降に配偶者の一方が国民年金の第3号被保険者(専業主婦など)であった期間について、厚生年金を払ってきた側の保険料記録の1/2が自動的に分割される制度です。
合意分割と同時に請求することもでき、請求されれば拒否することはまず不可能です。
ただ原則として離婚から2年以内に請求しなければならないため、制度を知らない側にわざと教えないというケースも考えられます。もちろん〝ハッピー熟年離婚〟などでは、きちんと話し合うことで後々の良い関係を築けるでしょう。
国税庁では、これら離婚時の年金分割に関して、原則として贈与税の課税関係は生じないとしています。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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