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 国税や地方自治体が滞納者の財産を差し押さえるにあたり、その上限を定めているのが国税徴収法76条です。滞納者と家族の最低限の生活を保障する為、同条では「差押禁止債権」として給料などに関しては差し押さえてよい上限の金額を厳格に定めています。収入によって上限額は異なりますが、最低限、「本人4万5千円+扶養親族数×4万5千円」は手元に残すことが法によって規定されています。

 しかし訴えを起こした男性は収入35万円のうち32万円を差し押さえられ、また長女も給料の全額を差し押さえられています。なぜこのようなことが起こるのかといえば、全国の税の徴収実務でまかり通っている2つの裏技があるからです。

 一つは、差押禁止債権について定めた国税徴収法76条に、「(差し押さえできない財産について定めた)前項の規定は、滞納者の承諾があるときは適用しない」とする項目がある点です。つまり、承諾書さえ取れば、実質的にはいくら取り立てても違法ではないということになります。実際にさいたま市の事例では、市は男性の妻に「このままでは他の家族の給料もすべて差し押さえられる可能性もある」と説明し、男性本人の同意を得ないまま承諾書に妻の署名をさせて、それを根拠に差し押さえ上限を大幅に超える32万円を差し押さえていたといいます。

 もう一つは、76条で差し押さえを禁止する財産はあくまで「給与債権」であり、それ以外の財産については触れていないことです。さいたま市の長女の例でいえば、給与が口座に振り込まれた瞬間、それは給与債権ではなく「預金債権」に変わるので、上限なく差し押さえできるというのが市の言い分です。

 給与と同様に年金なども差押禁止債権に含まれますが、これまた口座に振り込まれた時点で差し押さえ可能な債権に変わるとして、取り立てることができると主張します。

 この取り立て手法については最高裁が1998年にお墨付きを与えていることから、全国で滞納者の年金が徴収される事例が多発しています。これら2つの「裏技」はどちらも滞納者の最低限の生活を保護するという法の趣旨に反しているといえますが、少なくとも現行法制のもとでは認められているやり方になります。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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