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「紀州のドンファン」と知られた実業家、野崎幸助さんが残した遺言書の有効性を巡り、親族らが遺言執行者の弁護士を相手取り提訴しています。この裁判で焦点となるのは遺言書の真贋になりそうですが、たとえ本人の書いた遺言書であっても、法的効果を発揮するための条件を満たしていなければ無効となってしまいます。家族に残す思いを無駄にしないために、遺言に関するルールをしっかり把握しておきましょう。

 このほど野崎さんの親族が約13億円の遺産を巡って裁判を起こしていることがわかりました。

 野崎さんの遺産を巡っては、死亡から1年以上が経過して「全財産を住んでいる和歌山県田辺市に寄付する」という内容の遺言書が見つかりましたが、この遺言書が「怪しい」というのが親族らの主張です。訴状によりますと、遺言書はコピー用紙1枚に赤ペンで手書きされ、また発表された状況も不自然であることから、「熟慮の末に作成されたとは考えにくく、本人以外が作成に関与した」という内容です。親族らは、遺言の全面無効を求めています。

 遺言のルールは民法で定められていますが、筆記用具や紙に関する規定は存在しません。つまりコピー用紙に赤ペン書きであろうと、メモ書きであろうと、それ自体が遺言無効にはなりません。しかし、このように訴えを起こされないためには、遺言者はある程度の体裁を整える必要がありそうです。

 問題なのは、遺言が法的効力を満たしているかどうかです。法的要件を満たさない遺言は遺産分割に対する強制力を何ら持ちません。

 遺言の種類は複数あり、代表的なものに「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類があります。

 法的要件を満たすという上で信頼が置けるのは「公正証書遺言」です。役所で公証人の立ち会いの下で作成し、アドバイスを受けながら作成する為、確実に法的要件を満たすことができ、紛失や改ざんのリスクもありません。実際に公正証書遺言の作成件数は年間11万件を超え自筆証書遺言の5倍以上となっています。

 また民法では遺言書を日本語に限定する規定もありませんので、英語であろうと中国語であろうとかまいませんが、その翻訳にあたっては本人の意に沿わない解釈がされる可能性が高まることになります。その点、公正証書遺言では通訳が立ち会って内容を日本語に訳し、本人の同意をもって日本語で文書を残すので、誤解の余地がありません。

 ただし、公正証書遺言を残すにはコストがかかります。手数料は遺言書に書かれた財産の額に応じて増え、資産が1億円を超えるようなら数万円~数十万円になります。また公証人以外に2人の証人が必要で、相続の利害関係者は証人になれないため、候補が見つからないときもあります。そういう時は役所に証人の手配を頼むことになりますが、そうすると別途日当が生じます。意外とお金がかかるのが公正証書遺言の欠点といえます。

 一方の「自筆証書遺言」は、その名の通り自分一人で書けます。場所を選ばず、費用もかかりませんので、新型コロナウイルスの流行を受けて家にいる時間が長い中で遺言を書いたという人もいるのではないでしょうか。昨年3月の法改正によって、財産目録についてはパソコンで作成できるようになり、さらにハードルが下がっています。

 ただし、法的効果を発揮するためには

①作成日付

②署名と押印

③本文が自筆

が絶対条件です。また不動産には地番や地積が正しく記載されている事も遺言書が正しく遺産分割に反映されるためには必要となります。

 非常によくあるミスが「日付を書き忘れる」というパターンで、遺言書を書き上げ、時間をおいてから内容を点検しようとして日付を書き忘れるケースが後を絶ちません。

 また修正の手順ミスもよくあります。一度書いた遺言書を訂正するためには、訂正部分に二重線を引いたうえで、正しい文言を横書きの場合にはその上部、縦書きの場合にはその左側に書いて訂正印を押し、さらに余白にどの部分をどう訂正したかをわかるように付記することが必要になりますが、最後の手順を忘れる人が多くみられます。

 署名は自筆であればよく、カタカナやある程度の崩し文字でも認められます。

 また印も、認印やシャチハタ、拇印でも大丈夫ですが、「花押」は遺言書の印鑑としては認められていません。最高裁によれば「印は文書が完成したことを確認するためにある。押印の代わりに花押を記して文書を完成させるという一般慣行や法意識は我が国にない」としています。

 なお、自筆証書遺言は法務局で遺言を保管する制度が7月10日から開始しています。1通3,900円で本人が作成した自筆証書遺言につき法務局が原本とデータを半永久的に保管するもので、遺言書を紛失するリスクを防止できます。ただし内容をチェックしてもらえるわけではありませんので注意が必要です。遺言書を巡って相続トラブルが発生しないよう、遺言書作成時には、内容に加えて法的要件についても重々チェックするようにしてください。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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