25359494_m

 不動産や通帳による預金といった「現物」が存在する従来の相続とは異なり、現代では、ネット金融機関の口座や証券、暗号資産、電子マネーといった「デジタル遺産」が増えてきています。デジタル化は利便性をもたらした一方で、「遺産が存在するのに、相続人がその存在を知らない」という新たな問題を招いているのが現状です。遺産分割協議後に新たなデジタル遺産が発覚し、協議のやり直しや延滞税の発生という思わぬ負担を招かぬよう、事前の対策の必要性が一層増しています。

 2023年度の国税庁の統計によりますと、現金・預金等(35.1%)と有価証券(17.1%)の金融資産が過半数を占めています。相続財産といえば不動産の印象が強いですが、実際には、金融資産が大きな割合を占めています。

 しかし今後は、ネット専用銀行、ネット証券で管理される預金、株式、投資信託に加え、暗号資産(仮装通貨)、FX、電子マネーといった、完全にデジタルで完結する資産の浸透がさらに加速するものと見込まれます。

 デジタル資産の最大の特徴は、「目に見えないこと」です。従来の資産であれば、自宅に残された通帳や証券、登記簿などが遺産の手がかりとなっていました。しかし、ペーパーレス化が進む現代では、被相続人がどの金融機関で、どのようなデジタル取引をしているのかを相続人が把握することが極めて困難になってきています。金融機関は郵送通知を行わないケースが多いので、相続人が資産の存在を知らないまま手続きを進めてしまうケースが目立ってきました。さらに相続人はおろか、被相続人本人ですら、すべてのデジタル財産を正確に把握できていないケースも多くみられます。現代の相続では、デジタル遺産の把握漏れを前提とした対策を講じる必要性があるということです。遺産分割協議が成立していたとしても、後からデジタル遺産が発覚すれば、時間と労力をかけた協議を一からやり直さなければならないことも考えられます。

 たとえ相続人がデジタル資産の存在を知っていたとしても、手続きの段階でつまずくケースもあります。ネット銀行やネット証券での金融取引は、基本的にIDやパスワードといった認証情報がなければアクセスできないためです。親がネット取引していると知っていても、IDやパスワードがわからなければ名義変更に進めません。引き継ぐ人が認証情報を知らないと、デジタル遺産を事実上相続できない状態に陥ります。

 さらに深刻なのは、被相続人が認知症などを発症し、家族であっても本人の意思確認や口座操作ができなくなる事態です。そうなれば本人から資産の情報を聞き出すことも不可能となり、相続手続が滞るリスクがさらに増します。

 相続人がデジタル資産の存在に気付かず放置し続けていると、最悪の場合、相続人が知らぬ間に損失を被る可能性も出てきます。例えば、ネット証券で保有していた有価証券の評価額が遺産分割協議中に暴落してしまうと、有価証券の相続税評価額は「相続開始日」の価値で計算されるため、協議成立までの下落分が考慮されず、実際の価値よりも重い相続税負担を強いられる可能性があります。

 また、被相続人が遺したネット上の借金つまり「負のデジタル遺産」にも注意が必要です。商品先物取引やFXで発生した多額の評価損や追証(追加証拠金)の支払義務が、知らないうちに相続人に引き継がれるリスクがあります。相続放棄の期間が過ぎてから負債が発覚した場合、相続人が返済義務を負うことになりかねません。さらにデジタル資産を把握できず申告漏れがあった場合、延滞税や過少申告加算税が課されることも想定しなければなりません。

 これらのトラブルを回避するためには、最も確実で最低限の対策は、被相続人自身がデジタル遺産の情報を「見える化」して残しておくことです。残された家族が困らないために、以下の対策を講じておくことが重要です。

 まずは、デジタル資産の一覧表を作成することです。利用しているネット銀行、証券会社、暗号資産交換業者、電子マネーサービス名、保有する金融商品の種類などをまとめておき、それぞれの連絡先、ログインID、パスワードなどの情報なども付記しておきます。生前に悪用されないように厳重な管理が必要ですが、かといって相続発生後に見つからないのでは意味がないので、保管場所を信頼できる家族に伝えておくべきでしょう。デジタル資産の存在と、その一覧表の保管場所を遺言やエンディングノートに残し、家族へのメッセージとするのも有効です。

「遺言」を円滑に次世代へ引き継ぐために、デジタルな時代だからこそ、アナログな記録と共有が不可欠になっています。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

「所長の独り言」一覧はこちら

 

免責
本記事の内容は投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談の上行うか、十分に内容を検討の上実行してください。当事務所との協議により実施した場合を除き、本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。また、本記事を参考にして訴訟等行為に及んでも当事務所は一切関係がありませんので当事務所の名前等使用なさらぬようお願い申し上げます。