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 今まで国税から見逃されていた問題点や、従来は到底課税されると思えなかった節税について、少しずつですが対応が厳しくなっている印象があります。

 最近の税務判例の中で最も驚かされたのが、賃貸不動産を使った相続税の節税が否認された事例です。事の概要は以下の通りです。

 被相続人は、銀行より調達した借入金で1棟の土地付賃貸マンションを2件購入しました。この借り入れの際に被相続人は銀行から不動産を取得した場合の相続税の試算及び相続税の圧縮効果について説明を受けたうえで、銀行との間で相続税の負担軽減を目的とした不動産の購入資金との共通認識のもと、本件不動産の調達資金の借り入れを行っていました。

相続人は、本件不動産について財産評価基本通達に基づいて、取得価額及び不動産鑑定評価額の30%にも満たない評価をする一方で、当該借入金を債務として計上することで相続税額の圧縮を行い相続税の申告書を提出していました。

これに対し、原処分庁は本件不動産を評価通達の定めにより評価することが著しく不適当と認められるとして、財産評価基本通達第1章総則6項により不動産鑑定評価額により評価した価額による相続税の更正処分等を行い、これを不服とした相続人が審判所に対して審査請求を行いました。

審判所は評価通達の形式適用を認めず、総則6項により不動産鑑定評価に基づいて評価することが相当であるとして相続人の主張を斥けました。

 相続税の節税策として、相続税の通達で低く評価される賃貸不動産を借金で購入するという手法は、王道中の王道です。この策を実行しても否認されることはありえないと思われていましたし、仮にあるとしても被相続人が相続開始直前に賃貸不動産を購入するなど、強引な手法に限られていました。

 しかし、この事例では相続開始の直前に買ったわけではなく、相続開始の2,3年前に購入したものです。中には相続が開始して、すぐに賃貸不動産を売ったのがよくないと指摘する専門家もいますが、相続税の納税のために早いタイミングで売らざるを得ないことはありますから、売却のタイミングは大きな問題とならないはずです。はるかに重要なのは購入するタイミングです。余命いくばくもない被相続人が相続直前に賃貸不動産を購入した、というのは明らかに不自然であり、このようなケースは意図的な租税回避行為と判断されるからです。このような不自然さがないこの事例で租税回避とされたことに、本事例の怖さがあります。これからは、巷ではやっている節税スキームについて、従来以上に慎重にならなければなりません。

 またこの事例においては、国税が決めた通達と矛盾した課税が行われていることも押さえなければなりません。近年、国税は自分たちが決めた納税者に有利な取り扱いを認めている通達を無視した課税をよく行っており、本事例もその一つです。国税の理屈としては、時価で課税するという法の趣旨に沿うように、賃貸不動産を柔軟に評価して課税したというのでしょうが、ハズレ馬券の経費性については、通達で認めていないことを前提に、継続的に行う業務について発生する経費であれば、それが直接収入につながらなくても経費になるという法の趣旨を無視して硬直的に課税しています。

 納税者の信頼を失ってまでこのような矛盾した課税を行う必要があるのか、国税には慎重な行政をお願いしたいところです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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