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新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワーク(在宅勤務)を実施した企業が増えています。それによって出社人数が従前の半分から7割程度で済むことに企業は気づき、広い床面積から狭い床面積に移転する企業も見えはじめています。今後坪単価の安い物件を手に入れようと考える企業も増えていくでしょう。ビルに入居するテナント企業からオーナーに対して賃料減額の依頼や退出の申出が相次いでいることから、リモートワークによって今後空室率が拡大する可能性も出てきました。オフィスビルの解約は一般に6カ月前に通知することになっています。となると秋以降に解約が増えることになるでしょう。

賃料の減額や解約に加えて、不動産オーナーにとって大きな負担となるのが固定資産税です。3月に発表された公示地価は地方圏がバブル期以来28年ぶりにプラスに転じるなど、昨年から引き続き好調な水準を記録しましたが、この地価には2月以降のコロナの影響が反映されていません。コロナショックによって土地の実勢価格は大きく下がっているにもかかわらず、公示価格ではコロナ前の評価で高止まりしていることで、固定資産税の支払いが不動産オーナーにとって大きな負担となっています。

解約などで空室が増えてくると固定資産税の負担がオーナーにとってジワジワと効いてきます。不動産の賃貸市場が下がってくると賃料収入は当然下がり、解約などで空室が埋まらない状況が続くと、高額な固定資産税が払えなくなります。

2015年1月の相続増税対策として、賃貸アパートを建設して節税する手法がもてはやされましたが、想定した賃料収入が入らず、多額のローン債務を抱える不動産オーナーにとって高止まりした固定資産税の負担は大きいといえます。空室率の上昇で家賃収入が減る中で、テナントからは賃料の減額を求められ、引き下げに応じなければならない状況で固定資産税と銀行にローンを返済しなくてはなりません。場合によっては銀行に不動産を没収される事態も出てくるかもしれません。

3月以降、マンション市場は新築・中古共に取引件数が縮小しています。なかでも人口減少や高齢化社会に突入していく中で、放置したまま朽ち果てた空き家や買い手のつかないマンションが全国各地に増えつつあります。

総務省が昨年4月にまとめた「住宅・土地統計調査」によれば、全国の空き家は846万戸に上り、この5年間で26万戸増加。既に住宅総数は総世帯数を超え、住宅総数に占める空き家の割合は13.6%となり、実に8戸に1戸は空き家となる計算になります。野村総研ではこれが33年には30%になると推計しています。

特に地方都市では地価の下落と人口減少が絡み合い、売却を希望する不動産が増えているのに買い手が見つからない現象がではじめ、地域のインフラは劣化し、産業も衰退してデベロッパーも再開発に消極的になるという悪循環が起きています。

こうして不動産価格は輪をかけて下がっていくという負のスパイラルが広がっていく中で、コロナ危機がやってきました。

そして今年発表された相続税路線価は「コロナ以後」は反映されていません。土地の実勢価格は大きく下がっているにもかかわらず、相続税路線価がコロナ前の評価で高止まりしていることから、土地の価値に見合わない相続税の負担が強いられることも考えられます。

さらに追い打ちをかけるのが「団塊の世代」の高齢化です。団塊の世代は2028年には80歳前後となり、その子供世代となる団塊ジュニアは50歳前後になります。内閣府の「高齢社会白書」によりますと、団塊の世代の持ち家率は86.2%と非常に高く、今後数百万世帯の規模で子が親の資産を引き継ぐことになるでしょう。今後団塊の世代の実家の相続と共に、団塊ジュニア世代の実家の相続が同時並行的に発生する「大量相続時代」を迎えることになります。

東京都世田谷区で会社経営をしているSさんは3年前、地方都市にある一戸建てを親から相続しました。Sさんは「両親の家が居住地から離れたところにあるので、その管理までなかなか手が回りません。建物は放置すればすぐに劣化し、人に貸すことも売ることもできなくなってしまいます。解体して更地にしても土地の値段が下がって売却できないときのことを考えると恐ろしくなります。更地のまま保有し続けると固定資産税が大幅に上がってしまうからです。」と話すように、コロナ禍で税金や維持管理費などの「赤字」を垂れ流すだけの不動産が今後増えていくことが想像できます。

これまで東京五輪開催に向けバブル状態だった不動産が、コロナショックによって大きな曲がり角に直面しています。今後コロナの長期化を踏まえ、自らの資産が減らない対策を講じていかなければなりません。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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