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 遺骨の埋葬にあたり、特定の墓石を持たない「樹木葬」を選ぶ人の割合が全体の4割を超え、長年トップだった一般墓の購入との順位が逆転したという結果を、終活関連企業「鎌倉新書」が運営するお墓の総合情報サイト「いいお墓」の調査会社が発表しました。ライフスタイルの多様化により、従来の「お墓」の形にとらわれず自分の死後について自由に発想する世代が増えてきています。かつて、成功者にとっては生前に立派な墓を建てることは一種のステータスであり、節税策としても子孫のために有効であるとされてきましたが、今後は相続財産の形として一考の余地が出てきました。

 樹木葬とは、霊園などにある樹木を墓標として、その周辺に遺骨を埋葬する方法で、一般墓のように家ごとの墓石を持ちません。多くの霊園では永代供養料として埋葬時に一定の金額を納めれば、その後は管理費などを支払うことはないシステムがとられています。代々にわたって承継する必要がないため相続にあたって誰が〝墓守〟となるかで相続人がもめる心配もなく、また管理費などが発生しないこともメリットとされます。

 特定の墓石を持たずランニングコストがかからないという点では、一つの大きなスペースにまとめて安置する「集合墓」や、骨壺のまま専用の置き場に収納する「納骨堂」への埋葬も永代供養のジャンルに分類でき、一定の層の支持を得ています。一般に集合墓は永年安置ですが、納骨堂の場合は「3回忌」「13回忌」「33回忌」など期間が定められていることも多く、費用もプランに応じて支払うことになります。

 一方、これら永代供養に対して、一般墓は寺院などに墓地の「永代供養料」として費用を支払い、そのうえに自腹で墓石を建立するものを指します。土地賃料、墓石代、管理料に加え、大抵は檀家としての諸費用がかかり、総額は立地にもよりますが永代供養に比べ2から3倍は必要になります。先祖代々の墓として一族の絆を深めるメリットもありますが、管理するにあたっては面倒な点も多く、最近は避けられている傾向にあります。

 「いいお墓」が実施した複数選択可能アンケート調査での結果で注目したいのが、永代供養を選択した理由で、1位は「子供に迷惑をかけたくないから」(50.7%)で、2位の「承継者がいないから」(40.5%)、3位の「比較的リーズナブルだから」(33.8%)を上回りました。子供の有無や費用面以上に、自身の気持ちが理由となっています。「子供に迷惑をかけたくない」とは、言い換えれば、その人自身が墓を引き継ぐことを「迷惑」と受け取っているからに他なりません。

 これまで墓は、それなりの家柄を象徴するものであり、「立派な墓を残す」ことは、ある意味成功者のステータスでもありました。しかし立派な墓の継承を重荷に感じる世代が増えてきたことで、今後は財産としての墓の存在価値にも変化が起きそうです。

 また一方、生前に立派なお墓を建立することは、富裕層の間では効果的な節税策として重宝されてきました。死んだ人が生前に建てていたお墓は相続のうえで「祭祀財産」として非課税財産となり、課税財産を減らすことができるからです。祭祀財産にはお墓の他に位牌や仏壇、仏具、神棚、さらには先祖代々の家系図も含まれるなど、幅広く認められています。なお、祭祀財産であっても支払いが当人の死後になっては非課税財産にはなりませんので、ローンを組んで購入した場合などは注意が必要となります。

 相続対策として活用されてきたお墓の建立ですが、お墓自体を相続人がお荷物に感じるなら、相続税が減額されてもありがたいとは思わないでしょう。どんなに立派なお墓を残しても相続人にとってはただの金食い虫と思われてしまいます。生前に立派なお墓を残すことで相続財産を圧縮できたとしても、相続人がお墓に大きな存在意義を感じていなければ、一生にわたって維持費がかかるだけのものとなります。それなら多少の税金を払っても現金で残してくれた方が残された者としてはありがたいと思いませんか?

 最近は樹木葬の他、海洋散骨や宇宙葬まで様々な種類の埋葬方法があり多様性に富んでいます。ペットと同じ墓に入りたいという人も63%にも上り、実際に同じお墓に眠る人は36%に至っています。

 コロナ過で墓参りもままなりませんが、死や墓について最近は多くの人が「自分らしさ」を求めるようになっています。相続財産のあり方についても家族で見つめなおす時期に来ているのかもしれません。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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