第768話 相続税の遺留分請求の順番
たとえ遺言に「次男にはビタ一文やらない」と書いたとしても、子には民法で定められた最低限の遺産を受け取る権利があります。これを遺留分と言います。遺留分を請求できるのは配偶者、親、子までで、兄弟姉妹は含まれません。ただし親がいない場合は祖父母、子が既に死んでいれば孫も遺留分を主張することができます。
遺留分を計算する上で算定基礎となる金額には、相続発生時に残っていた遺産はもちろんのこと、一部の生前贈与も加算されます。具体的には、法定相続人への相続発生から10年以内の贈与と、相続人以外への1年以内の贈与は、遺産に足し戻して遺留分を計算します。
「ビタ一文やらん」と言われた次男が実際に遺留分を請求するとなったときに、1番多くの財産を生前贈与によって受け取った長兄、遺言によって少額の遺産を受け取った3男、介護を請け負う代わりに死亡時に現金を受け取る約束をした長女、この3人の誰から遺留分を取り戻せばいいのでしょうか?遺留分の額を3等分してそれぞれから同じ額を受け取ると思いがちですが、実は遺留分を請求できる財産には決まった順番があります。
子供3人の財産の受け取り方はそれぞれ法律上の区分が異なります。3男のように遺言で財産を受け取るのは「遺贈」、長兄のように生前に財産を受け取るのは「生前贈与」、長女のように生前の贈与契約に基づいて死亡時に財産を受け取る方法は「死因贈与」と呼ばれます。遺贈と死因贈与は似ていますが、遺贈はあくまで贈る側の一方的な意思であり受け取り側が断れるのに比べ、死因贈与は両者合意の契約による贈与のために受け取る側が一方的に放棄することができません
そして遺留分請求の順位は、①遺贈、②死因贈与、③生前贈与、となります。つまり財産を受け取れなかった次男は、まず遺贈で財産を受け継いだ弟に遺留分を請求しなければなりません。その結果、次男の遺留分の全額を充当できれば長兄と長女には何の累も及びません。しかし次男の請求によって三男の取得分が遺留分にまで食い込んでしまうと、足りない分の請求先は次の順位である死因贈与で財産を受け取った長女に移ることになります。三男と長女の2人でも次男の遺留分を充当できないとなって初めて、生前贈与で財産を受け取った長兄に遺留分請求がやってくるという流れです。
もちろん家族の間で遺留分の争いなどが起きないような相続対策を講じておくことが一番ではあるものの、万が一のために、遺留分請求の順位を頭に入れておいた方がよいでしょう。なお、複数の生前贈与がある場合には、相続発生から近いものから順番に遺留分請求の対象となります。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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