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  世界的な財閥で知られる韓国のサムスングループが、昨年10月に死去した前会長の相続をめぐり、1.2兆円にものぼる相続税を銀行融資で賄うことを発表しました。莫大な額だけに融資にかかる利息も巨額になりますが、それでも借金納税する背景には、グループの中核事業をなんとしてでも創業家一族の手元にとどめたいとする経営判断が垣間見られます。

 日本でも相続税の納税資金が不足しているときは、銀行融資を活用することもありますが、そのときには延納制度との損得比較を含めて検討が必要となります。

 韓国企業の「サムスン」といえば日本ではスマートフォンをはじめとする電化製品で有名ですが、サムスングループは保険から流通まで幅広く手掛ける超巨大企業群を抱える世界でも屈指の財閥系グループです。サムスン電子、サムスン生命、サムスン重工業など関連会社は64を数え、年間売り上げは約20兆円、1グループで韓国の国内総生産の約2割を占めます。

 そのサムスングループの会長であるイ・ゴンヒ氏が、昨年10月25日に亡くなりました。同氏はグループ2代目会長にあたり、父親が立ち上げた個人商店を世界的な企業グループに育て上げた人物です。総資産が約2.5兆円で、韓国最大の資産家です。2014年に心臓発作を起こして以降は、介護を受けて暮らしていました。その遺族に課される相続税が約1兆1700億円となり、韓国史上最高額の相続税額となります。韓国は日本と並んで高税率な相続税を課す国として知られ、この時には最高税率の60%が課されました。その前年の2019年に韓国が相続税・贈与税で得た税収が約830億円ですので、1個人の相続税で前年の全ての相続税額を上回ったことになります。

 イ・ゴンヒ氏の遺産の大部分はサムスングループが抱える企業群の自社株です。この自社株を売却することは、会社の議決権の行使力を弱め、創業者一族のグループへの支配力を弱めることになります。

 そこで今年4月、同グループが発表したのが、約1.2兆円の納税資金を銀行から借り、5年をかけて相続税を分割納付するという案でした。サムスンの遺族たちは、自社株売却によるグループ分割への道を避け、自社株の掌握を優先しました。

 日本でも、オーナー企業の経営権の源泉は自社株をいかに多く握っているかであり、事業承継でも最重要視されるのは、自社株をどのように後継者に集約するかという点です。そのため、生前対策は欠かせないものであり、生命保険や不動産など、納税資金に充てやすい財産を残しておいたり、事業承継税制を充分に活用したりするなどして専門家の意見を聞きながら対策を練ることが重要となります。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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