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 いうまでもなく相続が発生すると遺族は葬儀の手配や関係者への連絡など、大変忙しくなります。そして四十九日が過ぎたころから相続をするか、相続を放棄するかを考える必要がでてきます。この期限は原則として相続が発生してから3カ月以内です。これを熟慮期間といいます。被相続人の生前の様子から、大きな借金がないと信じられるのならよいのですが、生前に事業をしていて借金を抱えていたりするなど重要な決定を夫婦のいずれか一方に任せきりのことなどよくみられます事柄です。今回は、相続を放棄することも検討しなければならないケースを想定して、現場に出てくる問題について一緒に考えてみましょう。

熟慮期間

 相続が発生してから3カ月を熟慮期間と言います。この間に相続をする(単純承認)か、放棄するか、はたまた限定承認をするかを選択します。単純承認をする場合は特に手続きは不要ですが、相続放棄と限定承認では、家庭裁判所へ手続きが必要になります。

 相続の放棄をすると、その放棄をした遺族は相続人ではなくなりますので、一切の財産と債務を引き継ぐことがありません。したがって被相続人が自宅をもっていた場合には、遺族は自宅から出ていくことになります。

 一方限定承認をすると、すべての財産と債務は一旦遺族が引き継ぎますが、引き継いだ財産を限度として債務を返済する必要があります。財産以上の債務の責任を負わないのがメリットですが、最終的に債務の方が多ければ、財産が残らないことになります。このような限定承認は、債務がいくらあるかはっきりしないケースで選ばれます。

借用書

 相続の放棄をするかどうかを考える際には、残された被相続人の書類を確認することになります。その書類の中から、借用書を見つける作業が必要となります。ただし借用書が出てきても、それ自体の返済が終わっているのか、途中なのか、はたまた利息を返しているのかどうかはわかりません。そんなときは通帳で出金履歴を確認していきます。返済状況がわかるように、領収書なども一緒に保管しておくと家族にとって助かります。

保証契約書

 相続で引き継がれる債務は借金に限りません。被相続人が誰かの保証人をしているとそれも引き継ぎます。したがって相続発生時点では財産の方が多かったとしても、単純承認すると保証人としての責任も引き継ぐことになるので注意が必要となります。遺族の為にも保証契約署などは整理しておきましょう。

金庫の鍵や暗証番号

 鍵付きの机の引き出しや自分専用の金庫についても、遺族はそれを開ける必要があります。鍵がかかっているのであれば、重要な書類が保管されている可能性が高いためです。そのため鍵式のものであれば鍵を遺族にわかるようにしておく必要があります。暗証番号式のものであれば、暗証番号も引き継ぐ必要があります。エンディングノートのような形で鍵の場所や暗証番号を残すようにするのもよいでしょう。そうしないと金庫の製造会社に問い合わせたり、専門業者に開錠をお願いしたりすることになり、手間とお金がかかります。

相続の放棄

 相続を放棄しますと、自宅や先祖代々の田畑など重要な遺産を放棄することになります。それだけに相続の放棄の決断には覚悟が必要です。決断までの熟慮期間は原則3カ月ですが、家庭裁判所に申請することで伸ばすこともできます。裁判所のホームページには次のように記載されています。「熟慮期間内に相続人が相続財産の状況を調査しても、なお単純承認、限定承認又は相続放棄のいずれをするかを決定できない場合には、家庭裁判所は申立てにより、この3カ月の熟慮期間を伸長することができます」

限定承認

 債務がどの程度あるかが不明でも、うまくいけば自宅などが残る可能性があるのなら限定承認を選ぶのも一つの方法でしょう。限定承認を選ぶと原則として遺族が財産と債務を整理して、債務を清算していくことになります。なお、この手続きを弁護士に依頼するにあたっては、元々限定承認の手続きが取られる件数が少ないため、引き受けてくれる弁護士も多いとはいえず、財産の内容によっては弁護士報酬が高くつく可能性もあります。相続によって引き継いだ財産の限度で債務を返済すればよいのはメリットですが、実際に選ぶケースはあまり多くありません。

 ちなみに限定承認は全ての相続人が共同して行う必要があります。その際、遺族の誰かが相続の放棄をしても、残りの相続人が共同で限定承認をすることが可能です。裁判所のホームページでは、次のように記載されています。「限定承認の申述は、共同相続人全員で行われなければなりませんので、一部の人だけで行うことは出来ません。なお相続放棄をした人は、相続人ではなかったものとみなされますので、それ以外の共同相続人全員で申述することになります」

取引銀行数が多いとき

 お付き合いしていた銀行の数が多いと、引き継ぐ遺族が銀行ごとに相続の手続をする必要があります。その時は銀行ごとに被相続人の戸籍謄本等を提出することになります。銀行の数が少なければ手続きが終わって戸籍謄本等が戻されたら、それを使って次の銀行へ順番に手続きをしていくこともできます。しかしそれでは銀行の数が多いと大変な時間がかかります。最近では登記所の認証を受けた法定相続情報一覧図が広く使われています。法定相続情報一覧図には、被相続人と相続人の生年月日や住所、関係などが書かれていて、戸籍謄本等の代わりとして使えます。まずは作成した法定相続情報一覧図と被相続人の戸籍謄本等を登記所に提出して、認証を受けることにより利用可能となります。認証された一覧図は無料で何枚でも交付を受けることができることから、銀行手続を始め不動産登記などでも使用でき、銀行の数が多いときなどに相続人の負担軽減となります。何はともあれ、銀行の数が少ない方が遺族の負担が軽くなるので銀行は徐々に数を絞っていく方がベストでしょう。

銀行通帳

 税理士に相続税の申告を依頼すると、過去5年から7年程度の銀行通帳を提出するように言われます。これらを税理士が確認することで、相続財産の把握漏れなどを防ぐためです。通帳を捨ててしまったような場合にも、基本的には税理士から取引履歴を銀行に取り寄せてくださいと言われますので、銀行に支払う費用や取り寄せる手間を考え、遺族のためにも銀行通帳は整理して保存しておきましょう。

 

 以上相続の現場で生じる様々な問題を取り上げてきましたが、実際にはこれ以外にも多くのことが起こりえます。普段から新聞や雑誌などで相続情報に触れておくことと、相続時に頼れる税理士や弁護士などを見つけておくといざというときに安心です。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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