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 第910話でも取り上げた最高裁における総則6項の適用を巡っての判決ですが、今回は下級審である東京高裁令和2年6月27日判決についてもっと掘り下げて考えてみたいと思います。

 東京地裁令和元年8月27日判決は、被相続人が死亡前に取得した2棟の賃貸用マンション(約40戸入居)の時価評価につき通達評価額によって行った納税者の相続税申告につき、課税庁が総則6項を適用して、不動産鑑定士が鑑定評価した収益還元価額を相続税法22条の適正な時価と認定して行った更正処分を支持した判決です。判決趣旨としては、

(ア) 通達評価額が、鑑定評価額の約4分の1の額であり、不動産鑑定士の鑑定した不動産の正常価格は、基本的に当該不動産の客観的な交換価値を示すものと考えられ、通達評価額が相続開始時における各不動産の客観的な交換価値を示していることについては、相応の疑義がある。

(イ) 各不動産の借入による購入により、本件相続に係る課税価格が6億円超のところ、借入金を差し引くと2,826万円となり、基礎控除(1億円)により本件相続税は課されないこととされ、さらにⅯ銀行の貸出しの稟議書の記載によれば、被相続人及び原告らは、不動産の購入及び借入れを、それらが近い将来発生することが予想される本件被相続人の相続において原告らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを期待して、企画して実行したと認められ、これを覆すに足りる証拠は見当たらない。

 以上にみた事実関係の下では、本件相続における各不動産については、評価通達の定める評価方法を形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いるという形式的な平等を貫くと、各不動産の購入及び各借入れに相当する行為を行わなかった他の納税者との間で、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかというべきであり、評価通達の定める評価方法以外の評価方法によって評価することが許されるべきであると判示しています。

 この事例の2棟の賃貸用マンションは、各40室程の部屋が満室の状態で、これを取得した被相続人は、1つ(甲不動産)は相続開始前3年半前、もう1つ(乙不動産)は2年半前に取得したものであること、乙不動産は相続開始後6カ月後に売却(相続税納付の資金のための譲渡とも言えます)されていますが、甲不動産は売却の事実はないこと、そしてその両マンションの賃貸業は採算がとれている通常の不動産投資であること等の事実関係からすれば、第935話で紹介した一過性な商品類似のマンション取得の先例判決と性格が全く異なることは明らかです。

 先例判決は賃貸用マンションとしての事業目的(経営目的)を有していないこと、つまり事業実態欠如(経営目的欠如)という要素が主たる「特別な事情」であり、加えて近接した時期において客観的交換価額が明確であり、現実的にその価額を取得しているという事例であり、マンション取得とその貸付業目的を有している本判決とは、全く次元が異なる事例であります。また、甲不動産については、少なくとも、収益還元価額で譲渡できるかどうかも不明であります。

 しかるに最高裁においては、「近い将来発生することが予想される相続において、相続税の負担を減じ、又は免れされるものであることを知り、かつこれを期待して、あえて購入・借入を企画実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行った」ことを重視し、それが「他の納税者との間に見過ごしがたい不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反する」ので、「特別な事情がある」と認定したとしています。今回の判決を受け、金額の大きな相続では相続税対策の手法やリスクの検討をこれまで以上に慎重にしなければいけなくなりました。節税なのか脱税なのかその境がより不鮮明になった今、これらのリスクを下げるには以下の3つの点に注意することをお勧めします。

①早いうちに相続税対策をする

年齢が若く、相続開始までの期間が長いうちに相続税対策を済ますことをお勧めします。

②節税以外の購入目的を明確にする

不動産を購入する場合は賃貸目的など、節税以外の合理的な目的を明確にしましょう。

③相続後5年以内に不動産を売却しない

相続税の除斥期間である5年を経過するまで不動産を売却しないようにしましょう。

 

          

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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