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 遺言は遺産分割の内容に大きな影響を及ぼしますが、遺産分割そのものを遺言で禁止することもできます。分割を禁止されると、遺産は相続人全員の共有状態となり、特定の誰かのものにはなりません。この遺産分割の禁止は、遺産分割の過程で起こり得る争族トラブルを防ぐために認められているルールですが、利用すべき上では注意すべき点が多いので制度内容をしっかり把握する必要があります。

 まず、遺産分割の禁止は決して「遺言通りに遺産を渡すよう強制する」というルールではなく、そもそも遺産を渡すこと自体をできなくする仕組みです。さらに遺産分割の禁止は、原則5年しか設定できません。

 現実のケースとして代表的なものは、相続人の中に未成年者がいる場合です。未成年者でも特別代理人を立てることで分割協議を進めることはできますが、手続きが煩雑で、いらぬトラブルの種にもなりかねません。そこで未成年者が成年するまで遺産分割を禁止し、本人が協議に参加できるようになるのを待つというケースが考えられます。

 また相続人間の折り合いが悪くてトラブルが予想されるケースもあります。5年で関係が改善するかは保証できませんが、少なくとも頭を冷やす時間が稼げるという意味で検討に値する一手です。

 そのほか相続財産の全容が不明だったり、相続人の確定に時間がかかったりというような場合も、調査期間を設ける目的で遺産分割が禁止されることもあります。

 なお分割の禁止は、遺言で指定する以外にも、関係者全員の合意があるときや、一部の相続人の申し出に基づいて家庭裁判所が認めたときも行われます。

 トラブル防止の観点からは利用価値の高い遺産分割の禁止ですが、デメリットも多い点に注意が必要です。例えば分割を禁止された遺産は相続人全員の共有財産となるため、自由に処分したり動かしたりできなくなります。共有財産が自社株であった場合、会社経営に重大な影響を及ぼすことも考えられます。

 さらに分割を禁止しても相続税は待ってはくれません。申告期限は相続開始から10カ月であるため、実際に遺産を受け取っていない状態で、それぞれの相続人は法定相続分に従った税金を納める必要があります。しかも分割が終わっていない財産は、配偶者控除や小規模宅地の特例といった各種の特例を利用できません。分割見込書を提出するか、あるいは後から更正の請求などを行うことで最終的には優遇を受けることはできますが、手続きが煩雑で一時的には持ち出しになる可能性もあります。遺産分割の禁止を検討する際には、こうしたデメリットがあることも踏まえて、専門家に相談したうえで慎重に検討してください。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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