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 相続税には、生前贈与の「持ち戻しルール」というものがあります。相続発生までの数年間に行われた生前贈与については、贈与ではなく相続によって得た財産として扱い、贈与税ではなく相続税を課します。言い換えれば、死期を悟ってからの駆け込み贈与を無効にする仕組みです。

 相続税と贈与税では贈与税のほうが税率は高くなりますが、贈与は相続財産全体の減少につながり非課税特例も多いことから、トータルの税負担を少なくできる傾向にあります。仮に相続発生直前の贈与を認めてしまうと「相続税で取られるよりは」と駆け込み贈与をする人ばかりになってしまい、税収が大きく減少するため、相続税法の持ち戻しルールが規定されているわけです。この持ち戻し期間は、これまでは3年でしたが、2023年度税制改正で7年に延長されています。実際には2027年以降になります。

 なおこの7年持ち戻しルールは税法独自の規定です。民法にも持ち戻しルールはありますが、こちらは特定の法定相続人への生前贈与があったときに、「遺産の前渡し」があったものとして、その分を遺産に合算して遺産分割や遺留分の算定を行うものです。こちらについては持ち戻し期間の制限がありません。2018年に改正された民法により、遺留分の計算については相続前10年以内の生前贈与のみ持ち戻しの対象とするよう改められましたが、遺産分割時の計算にあたっては時効なく、どれだけ前の贈与であっても持ち戻されてしまいます。

 民法の持ち戻しルールについては、遺留分に関する民法特例、いわゆる「除外合意」を使うことで、ある程度の問題の解消が期待できます。この特例は、相続にかかわる全員の合意があれば、ある財産を遺留分の対象となる基礎財産から外すことができるというものです。ただ遺産を1円でも多くもらいたいという相続人らの全員の同意を取り付ける必要があるので、実際には簡単にはいかないのが実情です。

なお、税法、民法ともに、20年以上連れ添った配偶者への贈与税の配偶者控除を適用した贈与は、生前贈与加算の対象とはなりません。 たとえ、贈与をした年に、相続開始となってしまった場合でも、特例の適用が認められることになります。これについては、税法には以前からあったルールですが、民法では2018年の法改正により導入されています。 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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