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 岸田首相は低迷する内閣支持率の反転を狙い、新たな経済対策の取りまとめを急いています。これまで岸田首相は「増税メガネ」と揶揄されるように、矢継ぎ早に増税ラッシュを繰り返してきました。それが一転、経済政策と合わせて「所得税減税」に言及しています。あきらかに「選挙目当て」と思われる内閣支持率回復目的の所得税減税対策ですが、物価高対策として適切かどうかについては、去年10月に行われた日本経済新聞の世論調査では、「適切だと思う」が24%しかなく、「思わない」が65%と圧倒的多数でした。内閣支持率も33%で前月調査より9ポイント下落しています。

 岸田首相は、ウクライナ情勢の緊迫化などによる原油価格の上昇や物価高騰、そして追い打ちをかけるように日米欧の金利差による円安が急激に進み、中小企業の経営が圧迫している中で、防衛費の増額や「異次元の少子化対策」の財源確保として、増税の銃弾を乱れ打ちしてきました。「大前提として、消費税を含めた新たな税負担については考えていない」と増税を否定する一方で、社会保険料の上乗せ徴収や扶養控除の縮小など、「ステルス増税」による負担増をこれでもかといっていいほど仕掛けてきています。

 特に中小企業にとって大増税になりえるスタートしたばかりの消費税のインボイス制度です。インボイス(適格請求書)の保存が消費税の仕入税額控除を受けるための要件となるため、インボイスを発行できない免税事業者は取引市場から排除される可能性があります。事業者間の取引では片方が免税事業者であればどちらかの消費税負担が増加することになます。一般的には弱い立場の下請け側が免税事業者ならば、課税事業者か免税事業者の選択をして、課税事業者になるならば、届出をして登録番号をもらわなければなりません。現在の免税事業者はインボイス登録をして増える税負担と、登録しないで取引が減るリスクとどちらが損になるかで悩むことになります。

 ところがここにきて首相は「税収増を還元する」との方針を示し始めました。賃上げ税制による減税制度の強化や特許などの所得に対する減税制度の創設、ストックオプション減税の充実などに取り組む方針だそうです。この3つの減税策は、経団連が去年9月11日に発表した「2024年度税制改正に関する提言」に含まれているものです。

賃上げ税制では、従業員の賃上げやリスキリング(学び直し)に積極的な企業の法人税負担を軽減する意向です。中小企業などを対象に、赤字で減税効果を得られなかった税額控除分を翌期以降に繰り越して使える案が浮上しています。

半導体や蓄電池など重要物資の国内生産拡大を支援する税制の創設を視野に入れ、特許やソフトウエアといった知的財産から生じるライセンス所得などにかかっている法人税を減税する「イノベーションボックス税制」の創設も検討しています。

 このほか役員や従業員が一定の価格で自社株を購入できるストックオプション「に関する税制の減税措置を拡充します。事業承継税制についても申請期限の延長を検討中です。

 しかし賃上げを実現した企業に対して減税措置を行うというのは、これまでやってきた賃上げ税制の継続でしかないし、事業承継税制もこれまでの延長に過ぎません。こんな政策で果たして日本経済が浮上できるのでしょうか?

 岸田首相は、去年11月2日の臨時閣議で、経済対策の規模が所得税と住民税の減税を含め、17兆円台前半になると語りました。消費税を5%に下げられる予算規模が15兆円です。

 消費税は導入からわずか30年で所得税や法人税と並ぶ基幹税に成長し、年間の税収はトップに躍り出ました。2022年度の税収は過去最大の71.1兆円で、そのうち消費税はインフレ増税効果もあって23兆円に上っております。

 購買意欲を高める消費税減税をもってしか、この非常事態を抜け切れる施策は見当たりません。定額減税したとしても貯蓄に回るだけというのは、今までさんざん経験してきたことです。小規模事業者を倒産に追いやるインボイス制度など即時にやめるべきです。

 コロナ対策で、世界100ヵ国以上の国が景気対策として消費税減税を実施しています。今、勇気をもって消費税率を5%に戻して景気を活性化させるという道を考えることは、あながち無謀な選択とは言えないはずです。赤字でも納税せざるを得ない中小企業にとって消費税減税は家計を応援するとともに、企業支援策としても有効である点から議論の俎上に載せてしかるべきです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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