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 死者・行方不明者、関連死を含め2万2167人が犠牲となった東日本大震災から今年で9年が経ちました。国が定めた「復興・創生期間」が最後の1年を迎える一方、復興はまだ途上にあります。新型コロナウイルスの感染拡大で、今年は政府主催の追悼式は中止となり、多くの被災自治体も主催する追悼式は中止や縮小することになりましたが、3月11日の発生時刻午後2時46分には、各地で人々が犠牲者を悼み、手を合わせ黙とうが行われております。

 このような災害や交通事故などで複数の親族が死亡した場合に、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでない場合は、法律上どのように相続に対応するのでしょうか?

 このように同時に複数の相続人が死亡した場合、その死亡時期の先後は相続関係に関し非常に大きな影響を及ぼします。

 相続においては、被相続人が死亡した時点で生存している者だけが相続人となる権利を有しています。(同時存在の原則といいます。ただし胎児などの例外があります。)
したがって、被相続人と相続人が同じ事故や災害により同じタイミングで死亡した場合、ほんの少しの差であっても、どちらが先に死亡したかでその後の相続手続きは大きくかわってくるのです。

ですから、相続人の死亡の先後は非常に重要なことといえるでしょう。死亡の先後の違いで、遺産の相続がどのくらい変わってくるのか具体例を上げて説明してみます。

 

【事例:父Aの遺産総額は1,000万円、子Cの遺産総額は0円】

 

(1)死亡した順番がわからない場合
 父親であるAとその子供であるBが、同じ飛行機に搭乗しており、不運にもその飛行機が事故により墜落してしまい、生存者がゼロであったと仮定します。残された遺族は、Aの妻であるCとAの父(祖父)であるDの2名だけです。このような場合、AとBのどちらが先に死亡したのか確認することはできません。しかし、どちらが先に死亡したかによって、相続の順番に影響が生じてきます。

(2)父親であるAが先に死亡した場合
 この場合には、まず父親Aの財産1,000万円を妻Cと子Bが、それぞれ500万円ずつ、2分の1ずつ相続します。

その後に、父親Aと子Bの財産を妻Cが全て相続することになりますので、最終的に妻Cは1,000万円を相続することになります。

(3)子であるBが先に死亡した場合
 この場合には、まず子Bの財産を父Aと妻Cが相続します。(子Cの遺産は0円。)続いて、父Aが死亡したので、相続人は妻Cと祖父Dの2名となり、妻Cが父Aの遺産1000万円の3分の2である666万円を、祖父Dが3分の1である333万円を相続することになります。

父Aと子Bの死亡の先後が違うだけで、妻Cの受け取れる遺産はこれだけ差が生じてくるのです。

 上記で説明したような飛行機事故などの場合、「父Aと子Bは、どちらが先に死亡した」のかを確認するのは不可能なことと言えるでしょう。このような相続関係を解決するために、民法では以下のように規定しています。

《民法第32条の2》
「数人の者が死亡した場合において、そのうちの1人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。」

(この民法の規定は、事故や災害などの共同の危機によって死亡した者の順序により相続人となりうる者が異なる場合、死亡の先後の立証が困難であるために、遺産を早い者勝ちで占拠した者が相続するという問題を解消するために、昭和37年に新たに加えられたものです。)

 飛行機事故の例を民法の規定にあてはめると、父Aと子Bは同時に死亡したものと推定されます。これを「同時死亡の推定」といいます。同時死亡の推定がなされたことによって、同時に死亡した者と推定された者同士の間には、相続は開始されません。この場合には、父Aと子Bとの間にはおける相続は考慮されないため、結局残ったのは妻Cと祖父Dということになります。つまり、法定相続人は、配偶者である妻Cと、直系尊属である祖父Dということになり、妻Cが3分の2を相続し、祖父Dが3分の1を相続することとなります。

 この法律は、東日本大震災の時のように被害が広範囲に及ぶときにも、複数の相続人が同日に違う場所で災害などに遭い死亡した場合、死亡時刻が不明で死亡の先後がわからない場合にも同時死亡の推定が適用されることになります。

 震災以外でも例えば、相続人Aは飛行機事故により死亡、相続人Bと相続人Cは同じ自動車事故により同日に死亡した場合などにも適用されます。決して、複数の相続人が「同じ場所で死亡した」場合だけに限られるものではありません。

 なお、同時死亡の推定の効果は、あくまでも「推定」にすぎないため、異時死亡を証明することによって覆すことは可能です。ただし、よほど明確な反証でなければなりません。十分な反証ができれば、死亡の先後が時間的にほんの僅かであっても同時死亡の推定を覆すことは可能となります。
 覆された場合には、受益者は不当利得となるために返還義務を負うことになります。また、新たに相続人となった者は、相続回復請求権を行使することができます。(相続回復請求権は相続人が相続権を侵害された事実を知ったときから5年間行使しない場合には、時効により消滅してしまいます。)
 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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