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 長男に全財産を引き継がせたいが、他の兄弟から最低限の取り分である「遺留分」を請求されたら目的を果たせなくなるので、生前に全財産を贈与しておくことで遺産分割そのものを行わせないようにする―こんな方法を思いついたとしても、実現は不可能です。民法では、配偶者や子、親、兄弟という法定相続人への生前贈与は、特定の人間が受けた利益として、遺産分割協議の際に「持ち戻し」することを定めています。つまり贈与した分も一旦相続財産に含めた上で、贈与を受けた人は既にその取り分をもらっていると判断します。

 かつては、生前贈与が15年前であっても30年前であっても、すべて特別な利益として持ち戻しをしてきましたが、さすがに何十年も前の贈与を持ち戻すのはやりすぎとして、昨年7月に成立した改正民法では「過去に行われた全ての贈与」が「死亡前10年以内の贈与」に改められました。

 ただし生前贈与が相続人以外、つまり第三者や法定相続人以外の親類に対するものだった場合は、話が違ってきます。相続人以外への贈与についても遺産分割時の持ち戻しのルールはあるものの、対象となるのは「死亡前1年以内の贈与」のみとなります。法定相続分に絡まない人への贈与は相続人間の公平を乱すわけではないため、大幅に短い期間が設定されています。もし短い期間で生前贈与を行い相続財産を減らしたいならば、相続人には当たらない孫への贈与も一考に値します。

 ただし、贈与した側とされる側の両方が遺留分の権利を侵害すると知って行った贈与だと認められると、持ち戻しの対象となります。例えば、「相続人に財産をびた一文渡したくない」という理由で結託して行われた贈与は持ち戻される可能性が高くなります。

 ちなみに制度としては、遺言などで「この贈与については持ち戻しの対象としない」という持ち戻し免除の意思表示を行うことができますが、この意思表示を相続人らが受け入れれば、生前贈与分を除いた上で遺産分割が行われますが、一人でも納得がいかない相続人が遺留分請求を申し立てると、持ち戻し免除の意思表示は反映されず、やはり生前贈与分も含めた上で遺留分の算定が行われることになります。遺産トラブルを防止するにはあまり意味がないのかもしれません。

 当事務所では、明日から16日までお盆休みとさせていただきます。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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