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国税局査察部通称マルサ。闇に潜んでいる資金に目を光らせ、時に経済社会の網の目をすり抜けようとする金を引きずり上げるため、「資金警察」とも呼ばれています。また、調査の取材に一切応じないため、マスコミ関係者から「沈黙の艦隊」と呼ばれる国税局。その中でも唯一、強制調査の権限を持つマルサは「国税最後の砦」と呼ばれ、特に情報に対するガードが堅いことで有名です。

マルサの内偵手法は、国税職員であっても在籍したものでなければ想像することもできない世界で、内偵活動の実態を知るのは極めて限られた者たちだけです。脱税者に察知されることなく、突然強制調査に入る姿から、「ステルス潜水艦」と呼ぶ者もいます。このように様々な呼び名があること自体が、マルサが秘密のベールに包まれた組織だということを証明していると言えるでしょう。

映画「マルサの女」の大ヒットによって、査察部の隠語だったマルサが使えなくなり、旧東京国税局のあった大手町(おおてまち)や旧庁舎の六階(ロッカイ)とも呼ぶようになりました。現在、東京国税局は中央区築地に移転し、査察部は9階と10階に分かれていますが、今でもロッカイの隠語が使われています。

映画「マルサの女」やテレビドラマ「チェイス国税査察官」「ナサケの女」など国税査察官の活躍を描いた作品は数多いですが、映画やドラマにははっきりと描かれてはいないことがあります。

マルサには内定調査を専門に活動する内偵班(通称「ナサケ」)と内偵調査の結果を受けて強制調査に入る実施班(通称「ミ」)が存在します。ナサケは情報の「情」から、ミは実施の「実」からくる隠語で、その業務は完全分業制です。

なぜ分業制にするかといえば、まず一つ目の理由として、スペシャリストの養成の必要性からです。内偵班は、銀行調査や張り込み、尾行、潜入調査などを担当していますが、内偵調査の技術は一朝一夕には育ちません。特に張り込みや尾行は、日頃の訓練がなければ、いざというときに役立ちません。

一方実施班は、強制調査の際に重要物証を探し出したり、脱税者の供述調査を取ったり、裁判のための証拠書類をまとめる技術が求められます。内偵班でも実施班でも査察官が一人前に育つためには少なくとも5年の修業が必要とされています。

 しかも査察部に配属されるのは、税務署での調査経験が5年以上のトップクラスの調査官です。もし内偵班に配属された査察官が、5年経って一人前になったと思ったところで実施班に配置換えされてしまうと、査察官としての力を発揮するまでに10年、税務署の調査経験を加えれば15年の丁稚奉公が必要になる計算です。このことからも内偵班、実施班の両立が難しい原因となっています。

二つ目の理由は、マルサの強制調査は、納税者に有無を言わさず踏み込む強力な公権力の行使のため、精度の高い調査が求められることです。強制調査に入ったものの脱税の事実がなく、間違えましたでは済まされません。

そのため、内偵班が内定調査をして、実施班が強制調査に入るシステムになっています。強制調査の可否を判断するのが情報検討会です。時に検討会では、内偵班が内偵の正当性(脱税は間違いない)を主張し、実施班が内偵の弱い部分に厳しい質問を浴びせ、議論が鋭く対立します。

実施班はターゲットと対峙し、強制調査の全ての責任を持たなければならないので当然必死になります。内偵班、実施班が互いのプライドをかけて議論を戦わせることによって、結果として、事実無根の納税者に強制調査に入ることを防いでいるのです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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