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 相続税申告の対象となる土地は書類上の「登記地積」ではなく、現実の「実績値」で計算します。「登記地積」は間違いがない地積であると勘違いされている方もおられますが、現在の登記地積は明治初期の地租改正で作られた「地券台帳」や明治半ばの土地台帳制度を基盤にしています。地租改正は、明治政府が明治6年以降行った税制改革であり、農業生産者に米などを物納させる年貢(旧地租)に替えて、土地の所有者に税金(新地租)を課すものでした。このため、土地の持主を特定し所有権を認め、地券台帳を作成するとともに、持主には「地券」が交付されました。地券に記された地価の3%が地租となり持主が金銭で納税する仕組みです。ただし、当時は税金が高く、土地の面積を小さく測るため、メジャーである縄を伸ばして測ったりしました。ただでさえ、現在のような正確な測量技術はなく、アバウトな測量のため、現在になって税務調査などで再測量すると、登記面積より実際には大きいことも珍しくありません。これを測量用語で「縄伸び」といい、逆に実測値が登記より小さいことを「縄縮み」といいます。

 この「縄伸び」のルーツをたどっていくと江戸時代の検地にまでさかのぼります。江戸時代以前の「測量技術の未熟さ」を云々と論じるわけではありません。伊能忠敬先生の測量技術、さらにさかのぼって太閤検地は、誰もが知っているところです。江戸時代にも、現在と変わらず土地を測量する必要があり、測量屋さんがいたということです。具体的には、検地奉行が年貢の取り立てのために、村の農地を測量していくのですが、当時には興味深い境界確定方法があったようです。以下、何点か挙げてみます。
「陰引き」みひき
 日照の悪い土地部分は農作物の収益性を考慮して、境界を動かし台帳の面積を小さくする。
「畔際引き」あぜきわびき
 畔の幅を一尺として左右一尺ずつ境界を動かし、境界を動かし台帳の面積を小さくする。
「四壁引き」しへきびき
 屋敷のある宅地部分について少し余裕を持たせ、境界を動かし台帳の面積を小さくする。
「抜歩」ぬきぶ
 農地の中に、池や石塚などがあれば、その収益性のない部分を除外する。
「縄心」なわごころ
 検地奉行が裁量で決める、現代版の課税面積控除。過酷な年貢の取り立てを憂慮し、農民を疲弊させないための境界確定方法。台帳の面積を小さくする。
「縄だるみ」なわだるみ
 距離を測る際に、麻縄を強く引っ張るが、どうしても麻縄がたるんでしまう。その補正として、その長さに応じたたるみ分の長さを、測った距離から除外すること。これにより台帳の面積を小さくなる。
「端尺切捨」はじゃくきりすて
 現在の四捨五入のような考え方ではなく、ある一定の数字に及ばない端数は切り捨てること。
 以上です。後半のふたつは、境界の確定方法というよりも測量の算術のようなものですね。

時は明治になり地租改正が始まります。公図ができるときです。また「縄伸び」が発生するときでもあります。地租改正の地押丈量(測量)は、先ほど言及した江戸から続く検地台帳の内容と、農民からの申告内容を照合したようです。照合の結果、申告面積が検地台帳の面積に比べて増加、または同じであれば、現地調査なし。検地台帳の面積と比べて、申告面積が小さければ、税金逃れとみて「竿入(現地調査)」を行ったということです。ゆえに地域差はあるでしょうが、江戸時代の検地台帳に記載されていた内容が、そのまま、明治に継承されていったものは相当あったと考えられます。なるほど、検地奉行たちの「縄心」といった税額控除された面積が、いまだ法務局のPCから登記記録としてプリントアウトされている可能性もあるわけです。

 この「縄心」が現在の申告にも影響を及ぼすなんて不思議な気持ちです。ただし、当然のことですが、土地家屋調査士が測量し終えたものは、新たに法務局に登記されています。この縄伸びや縄縮みの可能性があるかを調べるには、「不動産登記法14条地図」で確認してみることです。ここには地番や縮尺の他「分類」という項目があり、それが「法14条地図」となっていれば、地図整備事業により正確に測られたものであることが確認できます。しかし「地図に準ずる図面」となっていて、さらに「旧土地台帳附属地図」であれば、明治時代の古いものをベースにそのまま引き継いだ可能性が高いということになります。

 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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