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 不妊に悩む夫婦の残された選択の一つが、夫婦の受精卵を代理母の胎内に移植して妊娠、出産してもらう「代理母」の仕組みです。不妊治療の手法は様々なものがありますが、この代理母については、出産による代理母の死亡リスクや出産のために人体を道具化することへの倫理的な問題などもあり、日本では産婦人科学会が「禁止する」という指針を出しています。日本国内での代理出産は違法ではありませんが、行われていないのが現実です。

 夫婦以外の第3者からの卵子や精子の提供を受けた子供については、2020年に民法上の親子として認めるという法律が成立していますが、同法でも、代理出産については2年をめどに課題を検討するとのみ記され、棚上げとなっている状態です。

 もっとも子を持てないことに苦悩した夫婦が、海外で代理出産の道を選ぶことは現在でもありえます。このような場合、代理出産で生まれた子供については、妻の卵子と夫の精子で作られ、夫婦のDNAを持つにもかかわらず、民法上は夫婦の実子とは認められません。なぜなら現行民法の解釈において「出生した子を懐胎し出産した女性が母となり、卵子を提供した女性との間に母子関係の成立を認めることは出来ない」とあるからです。

 もし代理母出産による子を相続人にしたければ、特別養子または普通養子にする必要があります。特別養子縁組は、養親と養子の親子関係を重視しますので、養子は戸籍上養親の子となり、実親との親子関係はなくなります。それに対して普通養子縁組は、養子が実親との親子関係を存続したまま養親との親子関係をつくります。特別養子縁組は、原則として6歳未満の未成年者の福祉のためにある制度で、養子縁組が成立すると未成年者と実親の法律上の親子関係は消滅しますので、特別養子は養親が死亡した場合には法定相続人となりますが、実親が死亡した場合には法定相続人とはなりません。

なお養子人数については、民法上は何人いても問題ありません。ただし、相続税法上

においては課税を公平に行う為に法定相続人の養子数に制限がありますが、特別養子については実の子と扱いますので、数に制限はありません。このように卵子を提供した女性の法的立場は、「母」とは扱われず、あいまいのままです。

 将来、被相続人の死後に保存された精子・卵子から、相続人となる実子が生まれるなどの事態も起こりえます。代理出産に限らず、先端医療が進化して新たな治療法が増えていく中で、相続に関する法律も変わっていかざるを得ないでしょう。多様性を尊重する社会の中で「生まれ方」をどう扱うべきか、議論を深めていかなければなりません。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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