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 今年一番騒がれたニュースは、旧統一教会と政治家との癒着についてでしょう。安倍晋三元首相が射殺された銃撃事件をきっかけに、政治家と旧統一教会の不健全な献金や関係性を問題視する報道が多くみられました。政治と宗教の癒着を解消する手段として、宗教法人に対する「非課税制度撤廃論」が注目を集めています。

 ただし非課税制度撤廃論者のなかには、そもそも宗教法人の何が非課税でどうして非課税なのか正しく理解していない人も多いようです。制度の理屈を知れば、宗教と政治との関係についてより理解が深まるはずです。今回は、宗教法人の非課税制度の内容を見てみましょう。

 まずは宗教法人の非課税とされる税と範囲について見てみます。

 

 ・法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税…収益事業以外の活動から生じる所得

 ・所得税…預金利息・受取配当

 ・固定資産税、都市計画税、不動産取得税、登録免許税…境内地及び境内建物

 ・印紙税…金銭及び有価証券の受取書(領収書)

 

 非課税の対象は宗教活動にまつわるものに限定されています。その宗教法人に所属する職員らが受け取る給与等は、会社役員やサラリーマンと同じように税金がかかります。ここに書かれている収益事業とは、もっぱら収益の獲得を目的として行われる事業を指し、宗教法人が保有する遊休不動産を活用して不動産賃貸業を営むケースなどが典型例です。

 一方、信者からの献金や祭祀に伴い受け取るお布施など、宗教本来の活動に伴う所得は「収益事業以外の活動から生じる所得」にあたり税が課されません。

 宗教本来の活動に非課税制度が適用される理由は、宗教特有の2つの理由が挙げられます。

1. 憲法によって信教の自由が保障され、政教分離が義務付けられているから

2. 宗教活動が公益に資すると考えられるから

 

 無限のお布施を強要し家庭破壊まで引き起こす旧統一教会が公益に資する団体とは到底考えられないことです。

 信教の自由とは、特定の宗教を信じる自由をいいます。

 一方、政教分離とは、国家が宗教性を帯びないことや宗教に対する中立性を求める制度方針です。これらは憲法20条と89条に規定されています。

 

憲法第20条

①信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

②何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。

③国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教活動もしてはならない。

憲法第89条

公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

 

 宗教法人が非課税とされる理由としては、信教の自由を制度的に保障する為と考える説があります。これは生存権を保障する為に最低生活費分の所得を非課税とする制度、例えば所得税の基礎控除や配偶者控除などが存在するのと似たような理屈です。また宗教に課税すると国家権力が宗教に及びますから自由な信教を阻害し政教分離の妨げになるとの見方もあります。

 もっともこれらの説には否定的な見解も存在します。

「宗教法人への非課税措置は国が与える特権であり、20条1項に反する」

「非課税制度は政府からの間接的な助成金であり、89条に反する」

などとして、違憲を唱える論者も少数派ながら存在するようです。

 宗教法人が非課税とされる根拠として「公益的な事業を行う法人からは税を徴収せず、その分を公益のために使ってもらう方がいい」と主張する説もあります。これは宗教法人に限らず、社会福祉法人や学校法人などの公益法人についても通じる考え方です。

 教育や福祉といった公益のために行う事業は、本来なら国や自治体が担い、費用を負担すべきものです。その役割を公益法人が代わりに果たすのであれば、国や自治体は事業を行わずに済み、費用負担が削減できます。そしてその分の見返りとして、公益法人等に対し非課税とするのは、理にかなっています。

 宗教活動についても、文化の形成における貢献や信徒への精神的効果に公益的役割が認められるとされており、非課税制度の対象となっています。

 裏を返せば、公益に資するところのない法人や、むしろ公益に害をなすと考えられる法人には、非課税措置の適用をすべきではないのは当然と言えます。

 宗教法人に非課税制度が適用されることについては、批判的な声も少なくありません。霊感商法や霊視商法、過度に不安を煽って献金を募るなど、宗教名目の不健全な資金集めにまで非課税の恩恵が及ぶのは妥当ではないとの考えです。

 また政教分離の原則を徹底するために政治が宗教に対し非課税特典を与えるのはやめるべきとの論もあります。

 それでは仮に宗教法人の非課税制度を撤廃し、収益事業以外の宗教活動にも課税するようにしたとすると、どのような変化が生じるのでしょうか。逆に宗教団体の資金集めが活発になり、政治と宗教の結びつきがかえって強くなるのではないでしょうか。宗教名目の資金集めについては、より加速するでしょう。献金等に税がかかれば、宗教法人の手取り額が減ってしまうからです。税負担の発生を理由として過度な資金集めが正当化される可能性もあります。不健全な資金集めを規制する手法としては効果が見込めないと思われます。

 また政治と宗教はより強く結びつくでしょう。宗教が税を負担するとなれば、税の使い道について発言権を強めかねません。そもそも宗教団体が特定の政党を支持することは政教分離の原則に反せず合憲とされています。問題があるとすれば、その宗教団体が反社会的な活動を行っている場合でしょう。健全で公益に資する活動を行っている団体がその理念に従って政策的提言を行うのであれば、私たち国民にとっても利するところはあるはずです。

 税の面から宗教団体をとらえるのではなく、反社会的な団体には、新たな法規制が必要に思われます。フランスでは、反社会的行為に及んだ団体をカルトとして規制しています。カルトとしての判断基準として「法外な金銭的要求」「反社会的な教義」「子どもの強制的入信」など10基準を示しています。これに基づいて危険視する170以上の団体名も挙げ、旧統一教会もこの中に含まれています。法人やその代表が処罰対象になれば、解散命令を出すことも可能にしています。

 カルトとして宗教をどう法規制するかは、信教の自由を含めた憲法論議にも発展しかねずハードルは非常に高いものと言わざるを得ませんが、新たな被害者を生まないよう今後の岸田首相のリーダーシップが求められます。

 私ども事務所は、1月4日まで正月休みです。よいお年をお迎えください。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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