5cc0b4e7e75a721b3c106e57dbc4029f_s

 昨年12月に閣議決定された2023年度税制改正大綱では、税務申告を行わない「無申告」による税逃れへの厳罰化が盛り込まれました。国は無申告を「申告納税制度の根幹を揺るがす」と重くみており、課税・徴収の両面から厳しく追及していく姿勢です。たとえ故意でなくても、調査で無申告を指摘されてしまいますと高税率の追徴課税は免れません。万が一にも無申告加算税で追徴課税を追わないよう万全の構えでいなければなりません。

 本来納めるべき税額を納めなかったときに課されるペナルティーには、大きく分けて「過少申告加算税」と「無申告加算税」の2種類あります。「過少申告加算税」は、申告はしたものの漏れがあったり税務処理にミスがあったりで本来の税額に足りない場合が該当します。「無申告加算税」は、そもそも申告自体がされず、税金が納められていない場合です。

 このうち無申告加算税が課されるのは、法定期限までに申告がなかった時ですが、期限がオーバーすれば必ず無申告加算税が課されるわけではなく、例外も存在します。国税庁ホームページでは加算税が課されないケースとして「期限内申告をする意思があったとき」として以下のすべての条件を満たせばよいとしています。

 

  • 申告期限から1カ月以内に自主的に申告をしている
  • 申告は期限オーバーでも納税自体は期限内にしている
  • 過去5年以内に同じ事情で無申告加算税を免除されたことがない

 

 こうした事情に当てはまらず無申告加算税を課されてしまいますと、現行制度では、次の場合分けによりそれぞれ違う税率で無申告加算税が課されます。

 

①税務調査の通知前に自主的に申告…一律5%

②調査の通知後、更正を予知するまでに申告…本来納付すべき税額50万円以下まで10%、それを超える部分は15%

③更正予知後の申告…本来納付すべき税額50万円以下まで15%、それを超える部分は20%

 

そして無申告が意図的であったと証明されますと、40%の重加算税が課されます。国税当局にしてみれば、提出された申告書をベースに事実との乖離や差異を指摘できる過少申告に比べ無申告はそもそもベースとなる申告書がないため調査のきっかけを掴みづらくなります。また申告しなかったことが意図的であるかも証明が難しく、当局にとって無申告は「やりづらい」ターゲットとなっているのが現状です。

こうした実情を踏まえて昨年12月に閣議決定された2023年度税制改正大綱では、「税に対する公平感を大きく損なうような事例が生じている」として、無申告に対する厳罰化が盛り込まれました。

 新たなルールとしてまず、これまで50万円以下と50万円超の2区分だった税率に「300万円超」という新区分が設けられています。税率は、更正予知前と後でそれぞれ50万円超からプラス10%となり、重加算税でなくても最高税率が30%になります。

 さらに前年度と前々年度にも無申告加算税や重加算税が課されていますと、税率が10%上乗せされます。つまり3年連続で無申告をすると3年目で最高税率が40%、重加算税であれば50%にも達します。まとめると以下の通りとなります。

 

①税務調査の通知前に自主的に申告…一律5%

②調査の通知後、更正を予知するまでに申告…本来納付すべき税額50万円以下まで10%、50万円超300万円以下は15%、それを超える部分は25%

③更正予知後の申告…本来納付すべき税額50万円以下まで15%、50万円超300万円以下は20%、それを超える部分は30%

④無申告重加算税…40%

 

前年度、前々年度と何度も無申告を繰り返す累犯の場合

 

⑤調査の通知後、更正を予知するまでに申告…本来納付すべき税額50万円以下まで20%、50万円超300万円以下は25%、それを超える部分は35%

⑥更正予知後の申告…本来納付すべき税額50万円以下まで25%、50万円超300万円以下は30%、それを超える部分は40%

⑦無申告重加算税…50%

 

無申告に対する罰則強化は、2022年度税制改正でも盛り込まれています。国は「適正な記帳や申告が行われていない納税者については、真実の所得把握にかかる税務当局の執行コストが多大」として、無申告があった年の経費については、後から申告したとしても、帳簿書類などにより費用が生じたこと、支出先の相手先が明らかであり、反面調査によって支出が確かめられる場合を除いては、原則として損金にできないこととしています。当局は無申告について「申告納税制度の根幹を揺るがす」と強い口調で断じており、課税・徴収の両面からの取り締まり強化は今後も続くとみられます。

毎年の確定申告を欠かさない経営者には無申告は縁遠いと思いがちですが、そうとも言い切れません。例えば贈与のつもりがなかった財産の受け渡しに課税される「うっかり贈与」や相続後の税務調査で家族さえ知らなかった遺産の存在を指摘されるケースでは、そのつもりがなくても無申告加算税の対象となりえます。

無申告の罰則強化は来年1月以降に法定期限が来る国税に適用されます。いまや最高税率50%と致命傷になりかねないほどペナルティーが厳しくなったことを踏まえ、税理士などとコミュニケーションをしっかり取り、万が一にも無申告とならないよう心掛けてください。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

「所長の独り言」一覧はこちら

 

免責
本記事の内容は投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談の上行うか、十分に内容を検討の上実行してください。当事務所との協議により実施した場合を除き、本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。また、本記事を参考にして訴訟等行為に及んでも当事務所は一切関係がありませんので当事務所の名前等使用なさらぬようお願い申し上げます。