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 世界的な音楽家の坂本龍一さんが3月28日にお亡くなりになりました。複数回の結婚と離婚を繰り返し、それぞれの元妻との間にもうけた実子のほか、内縁の妻や連れ子もいる坂本さんの相続はかなり複雑なものとなります。しかも長年にわたり海外で暮らしていたことから、国際相続のルールも絡んできます。一筋縄ではいかない相続税の申告となりそうです。

 坂本さんの残した遺産の正確な規模は不明ですが、今もなお愛される名曲を数々作り出したことから、莫大な額に上ることは間違いありません。気になるのは遺産の行方ですが、坂本さんの家族関係を見てみますと、大学時代に一般女性のAさんと結婚し、女の子を1人もうけてその後離婚しています。その後、YMO時代にサポートメンバーを務めた音楽家の矢野顕子さんと再婚しますが、お互い再婚で、矢野さんには連れ子がいました。そして再婚後、現在も音楽家として活躍する坂本美雨さんをもうけます。しかし夫婦はその後離婚します。そして一般女性のBさんと内縁の夫婦として1人の男の子が生まれました。

 つまり坂本さんには元妻が2人、内縁の妻が1人いるわけですが、彼女たちに坂本さんの遺産を相続する権利はあるのでしょうか?

 答えは3人とも原則として遺産を受け取ることはできません。まず離婚した妻たちは、法的には完全に他人であり、相続人とはなれません。そして内縁の妻に関しても、法律婚ではないため相続人として認められないのです。近年では多様なパートナーシップを認めるという考え方から、内縁の妻に対しても相続権を認めるべきとの議論もありますが、現時点では内縁の妻は遺言がない限り遺産を受け取ることは不可能です。

 では次に坂本さんの子供たちについて見てみましょう。まずAさんとの間にもうけた子、矢野さんともうけた子、内縁のBさんとの間にもうけた子の3人は異母兄弟にあたります。この子たちの相続権については、母親が離婚済みであろうが内縁であろうが、相続権は認められています。複雑なのが、矢野さんの連れ子です。民法においては、結婚相手の連れ子は、相続権を持たないとしています。しかし、坂本さんは連れ子と養子縁組をしているとの報道がありました。これが事実ならば、養子は法定相続人として認められるため、相続権を持つことになります。

 養子縁組には、通常の「普通養子縁組」と実父ないし実母との関係を完全に断ち切る「特別養子縁組」の2種類があります。このどちらでも養父母の相続人とはなれますが、特別養子縁組では実父母の相続人にはなれません。つまり坂本さんが遺言を残していなければ、遺産は4人の子が等しく分けることになります。

 次に相続税について見てみましょう。坂本さんは1990年代からニューヨークに移住しており、相続税法上の「非居住者」に該当します。

 亡くなった人や相続人が国内に住んでいようがいまいが、「国内財産」には必ず相続税がかかります。問題なのは「国外財産」です。おおむね亡くなった人と相続人のどちらもが海外に移住して10年以上経っていれば、日本の相続税はかかりません。坂本さんが最後に息を引き取ったのは日本国内の病院とみられ、少なくとも最晩年の数年間においては、日本で過ごした可能性が高いと思われます。たとえ過去に30年間ニューヨークで暮らしていたとしても、最後の数年間を日本で過ごしたのならば、坂本さんが日本に住所を持つ居住者として相続税を課される可能性がでてきます。一般的には治療目的でずっと入院しているようなケースでは住所があるとはみなさない見解を国税庁は示していますが、坂本さんは通院して投薬治療を続けていたともあり、こうした違いが大きな税負担の差となって生まれることは十分にあり得る話です。

 坂本さんに限らず、残された家族に混乱と争いを生まないためにも遺言書などでしっかり道筋をつけてあげることが資産家の務めであると思います。

 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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