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 孫子の兵法に出てくる有名な一節に「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という言葉があります。 「戦いに勝とうと思うなら、まず相手のことを知らなくてはならない。 相手を研究し、自分の得意・不得意についてよく理解すれば、どんな戦いでも勝つことができる」というように解されます。

 本来、税務調査の調査官が誰であろうと、同じ税法を基に調査する以上、結果は同じであるべきです。しかし実際には、税務調査官ごとに調査能力が異なることもあって、結果は違うものになるのが現状です。そのため調査の傾向を掴むためには、調査官のキャリアのチェックが重要となります。

 調査官のキャリアや肩書は、税務職員の配属便覧でチェックすることができます。

「職員配属便覧」は、税務関連の民間企業が10月ごろに発行しています。この便覧で確認できる税務調査官の部署と肩書から、税務調査の方向性や深度が見えてきます。

 わかりやすい例では、調査官に「情報技術専門官」がいればIT関係の調査が想定されます。また「国際税務専門官」が担当であれば、国際取引に問題がないかを重点的に確認しておく必要があるでしょう。

 部署でいうと、特に注意したいのが「特別国税調査官=特官」と「内部部門」です。特官は規模の大きな会社を担当します。規模が大きい会社ほど申告漏れと判断される額も大きくなる傾向にあるため、厳しい税務調査が行われることは想像に難くありません。一般的な税務調査は売上、原価、人件費くらいしか見られないので、狭く深く対策する心構えでいいところが、特官部門の調査ならより広く対策しなければなりません。

 一方の内部部門とは、「○○課税第1部門」のように各課税部門の第1部門を指します。規模の大きな税務署では、第1部門に限らず、第2部門や第3部門も内部担当部門に該当することがあり、法人課税第2部門(消費税・印紙税担当)といったように、担当する税目が併記されることが通例となっています。

 本来、内部部門は申告書入力などをする内勤の部署で、ほとんど税務調査には赴きません。しかし時々調査を担当することもあり、調査は得意ではないものの法律には詳しい傾向があります。特に源泉所得税担当や消費税担当の職員はレアな法律を知っているようです。そして消費税の還付申告に対する税務調査は基本的に内部部門の消費税担当が実施することになっています。

 調査官は立場が上の職員から順に、統括調査官、上席調査官、調査官、事務官となっています。事務官は肩書のない調査経験の少ない職員です。上席調査官までは基本的に経験年数に応じて決まるので、肩書を見れば調査官の経験を知ることができます。経験を積むほど税務調査能力が高まるのは間違いなく、おおむね事務官であれば税務調査が甘く、上席調査官であれば厳しいと予測できます。

 ただし電話をかけてきたのが事務官だったからといって、甘く考えるのは禁物です。事務官は調査に慣れるまで経験のある上席調査官などの同席を受けることが多く、複数の調査官による調査時は、基本的に職位が下の職員が電話連絡をするのが通例となっています。

 便覧を複数年見れば、調査官のこれまでの経歴を長いスパンで把握できます。例えば過去の経歴を見て税務調査関係の仕事が中心であれば、調査に強い反面、法律には強くないと想定できます。また総務的な仕事が中心であれば、調査経験が少ないため、押しに弱いということも考えられます。

 税務調査に訪れる調査官にはそれぞれ特徴や傾向があり、それを知ることは調査における〝勝ち筋〟を太くすることに直結します。税務調査の際には、事前に調査官全員の肩書や部署、経験をチェックすることで、対策をさらに盤石にすることができます。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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