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 「ところで奥様、過去に働かれていたことはありますか」

 「いえ、ずっと専業主婦です」

 「おかしいですねえ、どうしてこんなに預金に残高があるのでしょうか。これは亡くなられたご主人の収入ですね。贈与の証拠がなければ、相続税の対象となってしまいますが…」

 非常によくある、相続税の税務調査でのやり取りです。亡くなった夫としては生前に妻に財産を渡したつもりだったかもしれませんが、それを妻が証明できなければ贈与は成立せず、相続財産として相続税が課されてしまいます。

 贈与の大原則は「ただであげましょう」「ただでもらいます」という双方の合意の認識があることです。例えば孫名義の通帳を管理していて自分名義の通帳から移し替えるだけで贈与をしたつもりになっているケースがありますが、もらった側が知らないで贈与が成立することはありません。贈与をするなら

 

①きちんと相手に伝えること

②もらった人に財産が実際に渡っていること

③もらった人自身がその財産を管理していること

 

といった事実が必要になります。贈与の合意について民法上の契約は口頭でも構いませんが、税務調査の場面で証明できる自信がないのなら、契約書などの書面にして自署押印しておくと心強いでしょう。

 またモノの実際の引き渡しなくして贈与は成立しません。預金ならあげる人の通帳からもらう人の管理する通帳へきちんと振り込まれていることが贈与の証明となります。不動産を贈与するなら、登記などの名義変更手続きを絶対に忘れてはいけません。

 また年間110万円以内の贈与は非課税ですが、契約書に「毎年110万円を10年にわたって贈与する」というような契約は、1年ごとに贈与を受けると考えるのではなく、約束した年に「定期金に関する権利(10年間に渡り毎年110万円ずつの給付を受ける権利)」の贈与を受けたものとして多額の贈与税がかかりますので申告が必要となります。生前贈与をこのような贈与とみなされないためには贈与する度に贈与契約書を作成する必要があります。仮に10年間にわたって毎年110万円を贈与することが決まっていたとしても、贈与の都度、贈与契約書を結ぶことをお勧めします。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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