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 5月18日、歌舞伎役者の市川猿之助さんが自宅で意識がもうろうとした状態でマネージャーに発見されました。猿之助さんの母親と父親で歌舞伎役者の段四郎さんも自宅内で倒れているのが見つかり、その後、母親は自宅で、段四郎さんは搬送先の病院でそれぞれ死亡が確認されました。

 猿之助さんは、その後、母親の自殺を手助けした自殺幇助の疑いで逮捕され、父親の自殺についても手助けした疑いで再逮捕されています。

 この事件、猿之助さん自身も自殺の意思があり、遺書に、「財産はご自身のマネージャー兼付き人の「M」に残す」と記したそうですが、一命をとりとめたことで〝遺言〟は無駄になりましたが、この遺言では、そもそも法的効力を持ちません。法的効力を遺言に持たせるには、財産目録などを除く主要部分を自筆で書くだけでなく、日付や自筆署名が求められ、さらに押印がなければ全部が無効とされるからです。走り書きのメモ程度のものだったとしたら、これらの条件に合わず、遺言は無効扱いになります。

 猿之助さんには妻子がいないため、仮に猿之助さんが亡くなっていたとすれば、法定相続人は両親になりますが、両親が死亡しておりますので、相続人不在として猿之助さんの財産は国庫に入るのが〝正規ルート〟となります。

 ですがここで「特別縁故者」というルールがあります。特別縁故者とは、法定相続人ではないものの、亡くなった人と特別に強い結びつきがあったとして遺産を受け取る権利を裁判所に認められた人を指します。故人との関係をもとに家庭裁判所が特別縁故者に当たるかを判定し、認められれば遺産を受け取ることができます。そこで走り書きのメモに記されたMさんが、そのメモを証拠としてこの申し立てをすれば、遺産を受け取れる可能性はあります。しかし実務的には特別縁故者は、なかなか認められるものではありませんので、法的効力を持つ遺言を残すことが望ましいことは言うまでもありません。

 次に、猿之助さんの御両親の相続のお話ですが、猿之助さんは、相続人の権利がはく奪されますので相続権はありません。これは民法891条1号に相続人の欠格事由として以下の記載があるからです。

故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

 ここで少し整理しましょう。まず母親の死亡が自宅で確認されます。この時点では、父親の段四郎さんはまだ生きておられるので、相続権がなくなった猿之助さんを除く、段四郎さんに母親の財産は相続されます。次に段四郎さんがお亡くなりになりますが、その時点で、猿之助さんには相続権がありませんので、兄弟姉妹に財産が行くことになります。ということは段四郎さんの兄、2代目市川猿扇さん(俳優香川照之さんの父)が相続権を持つことになります。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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