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 今年3月末に成立した2023年度税制改正関連法では、年間110万円までの生前贈与を非課税とする「暦年課税」方式の厳格化が盛り込まれました。同方式では、死期を悟ってからの駆け込み贈与を防ぐため、相続発生までの一定期間内の贈与を相続財産に持ち戻すルールがあります。2023年度改正ではこれを現行の3年から7年に延長しました。

 持ち戻しの期間が倍増したことで、せっかく贈与した財産の大半を相続財産に持ち戻される可能性も出てきました。今回の見直しに対応するには、持ち戻しの対象期間を考慮して一層早く生前贈与に手を付けるしかありませんが、それでも最大で受贈者一人当たり110万円が7年分、770万円の贈与の節税効果が帳消しになりかねません。

 さらに現預金ではなく、土地を生前贈与して持ち戻しされた場合には、土地の評価額を最大8割減らせる「小規模宅地の特例」を使えません。

 一方で予想以上の拡充が図られたのが、「相続時精算課税」です。同方式は生前に贈与した分が2500万円までは贈与税がかかりませんが、相続が発生した際には全てを相続財産に持ち戻して相続税を計算する方式です。これまでは暦年課税とは異なりこの方式を一度選択してしまうとそれ以降は110万円以下の少額の贈与についてもすべて申告を求められることから、使いづらい制度であり、利用する人は暦年課税の10分の1にも満たなかった経緯があります。

 それが来年1月以降の贈与からは、特別控除2500万円に加えて、別に年間110万円の新たな控除枠が設けられることになりました。しかもこの相続時精算課税の110万円の非課税枠については、相続発生時の持ち戻しの対象になりません。

 つまり暦年課税については相続前7年分を持ち戻す一方で、相続時精算課税は死亡直前の贈与であっても110万円の非課税枠が使えるということです。

 以前の相続時精算課税では、そもそも相続税がかからない人にとっては遺産の前渡しに使えること、賃貸物件を子供や孫に贈与すると賃貸収入を子供や孫に移すことができることなどのメリットがありました。さらに土地や株式などの価格が低いときに贈与しておき、いざ相続時に価値が上昇していれば大きな節税効果が得られます。しかし、これらのメリット以上にデメリットが大きすぎました。一度でも相続時精算課税を使うと、暦年課税の110万円枠がつかえなくなることです。

今回の改正は、これらのデメリットを払拭した結果となります。

 また暦年課税においても持ち戻し期間を3年から7年に延長するかわりに、延長した4年分については、総額100万円までは相続財産に加算しない非課税の贈与財産とする負担軽減措置が取られました。またこの見直しは、2027年1月から段階的に延長していき、最終的に2031年1月に持ち戻し期間7年となりますので、取り扱いに注意が必要です。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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