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 来年から贈与税のルールに変更があります。相続税を計算するときの生前贈与加算の期間が順次延長され、また相続時精算課税制度の年間110万円の基礎控除が創設されます。

 まずは贈与税の基本を整理してみましょう。

 贈与のご相談でよく耳にするのが「お隣の○○さんのところは贈与したけど税務署は来なかった」とか「贈与しても税務署にはばれない」という話です。

 贈与税は単独での税務調査があることは、ほぼありません。ではどういうときに贈与がチェックされるかというと、相続税の税務調査の時に相続税と合わせて見られます。贈与契約が成立していたか、もし成立していなければ名義預金つまり相続財産ではないのか、贈与ではなく金銭の貸し借りではないか、といった部分を中心に確認します。

 ここでよく見聞きするのが「贈与税の申告をしているから贈与契約は成立している」という納税者の主張です。実は税務申告があったから贈与契約が成立するのではなく、贈与したつもりになっても法律上は贈与できていなかったとみなされるケースが相続税の税務調査では非常によく見られます。

 贈与契約の成立と贈与税申告の有無は別問題です。そのため適切な手順で贈与をしていることがより重要であり、贈与契約成立を説明するための根拠を丁寧に作っておくことが大切です。贈与が認められなければ当該財産は相続財産として相続税の対象とみなされてしまいます。

 贈与契約は財産を渡す人の「あげます」という意志と、財産を受け取る人の「もらいます」という意志が合致して初めて贈与契約が成立します。認知症以外の生きている人同士であれば意志の確認ができますが、相続税の税務調査では、財産を渡した人に話を聞くことはできません。結果、財産を受け取った側からしか話を聞けませんので、調査官が見たときに贈与が成立していたと納得してもらえるような根拠が重要になってきます。

 ではどのような根拠が必要になってくるのか、事例を織り交ぜ説明したいと思います。

 

①贈与があったことを知っている、かつ財産を所有し管理している

まずは受け取った人がその贈与や財産のことを知っていることです。

わかりやすく現預金で説明します。

おばあさんが孫に現預金を贈与したいとしましょう。現金で孫に直接渡すのが確実ですが、未成年の若い孫に現金を直接渡すと何に使うかわからないから心配になります。そのため、孫名義の預金口座をこちらで作って振り込んでおく、勝手に使われて金銭感覚がおかしくなっては困るので通帳と印鑑はこちらで管理しておくとします。

孫の立場で考えると、自分名義の預金口座の存在も振り込みさえも知らない状況となります。この場合、贈与行為があったことを孫は知らないわけですから、受け取っていないのと同じです。つまり贈与契約は不成立となります。

 相続税の調査時には、税務調査官に孫名義の預金口座を調べられて、預金通帳や印鑑はだれが持っていたのか、管理はだれがしていたのか、そういうことを根掘り葉掘り聞かれます。

 現預金での贈与で、通帳や印鑑を、財産をもらった人(受贈者)が所有し管理していたか、場合によってはその現預金を使っていたかというのは、贈与契約成立において非常に大きなポイントになります。

 

②贈与契約書の準備

契約ですから契約書があるほうが望ましいのは確かですが、いちいち家族間の贈与で贈与契約書にお互いが署名するのは面倒だというのもよくわかります。ただ後に税務調査があったときに贈与契約書がなくて困るような場面は想像できますが、あって困るような場面はないでしょう。

贈与契約書を作成して贈与者と受贈者でそれぞれ署名して保管し、可能であれば確定日付を公証人役場で取っておくと、より贈与契約が確かに成立していたという根拠になります。

確定日付というのは公証人役場で押してもらえる日付印で「その日に確かに書類がありました」という事実をより強固にしてくれます。やろうとおもえば後付けで贈与契約書は作成できてしまうので、疑われないためにも贈与契約書を作りお互いが署名して確定日付を取るという手間を惜しまないようにしましょう。

 

 生前贈与加算という相続税の計算上におけるルールがあります。これは亡くなった日からさかのぼって3年以内に贈与があった場合には相続財産に足し戻して相続税を計算するというものです。このルールは、来年から順次その対象期間が延びて最終的には亡くなってから7年間の贈与を足し戻すことになります。

 生前贈与加算のことを考慮して相続税対策で贈与をする場合には、足し戻し期間が3年の時よりもさらに早く贈与を始めて早く終えることの重要性が増します。

 もし今から相続税対策で生前贈与をするなら贈与する相手を検討してみましょう。生前贈与の対象者は「相続または遺贈で財産を取得した者」とされています。この部分を考慮に入れると生前贈与する相手を、相続または遺贈で財産を取得しない者にするのも選択肢です。例えば相続人である子に贈与を考えるのであればその子に配偶者がいればその配偶者や孫への贈与が有効です。

 相続で財産を取得しなければ仮になくなる3年や7年、極端な例でいうと亡くなる前の日でも、そもそも生前贈与加算の対象者でなければ相続財産への足し戻しの対象から外れます。

 ほかにも相続時精算課税制度や教育資金贈与、住宅取得資金贈与も相続対策として有効な贈与です。制度自体が複雑なので、生前贈与をお考えでしたら、税理士に一度相談して納得したうえで実行しましょう。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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