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2023年度版の「基準地価」は、コロナ禍でのマイナスから3年ぶりに上昇に転じた前年の流れを加速させました。新型コロナウィルス禍からの回復傾向が全国に拡大しているといえましょう。ただ地価の上昇は、そのまま将来の相続税負担の増加につながります。相続した土地の登記が来年4月から義務化されて〝負動産〟を放置することが許されなくなった今、これまで以上に不動産対策の重要性が増しつつあります。

基準地価は、今年7月1日時点での全国の土地の値段を都道府県が調査したものです。土地取引や固定資産税評価の目安になり、1月1日時点の地価を調べて国土交通省が発表する「公示地価」を補完するものともいわれます。

9月19日に発表された2023年度の基準地価では、全国の平均地価は前年比1%のプラスで、3年ぶりに上昇に転じた昨年から上昇率が拡大しています。住宅地の全国平均は前年比0.7%、商業地は1.5%、工業地は2.6%と、全用途でプラスでした。地方圏でも上昇が目立ち、主要都市を除いた地方圏の商業地はバブル期以来、32年ぶりに上昇に転じています。

住宅地の上昇の背景には、長期間にわたる低金利と、コロナ禍での生活様式の変化による郊外のマイホーム需要の高まりがあります。住宅地の地価は、マイナスだった地方圏もプラスに転じており、特に生活に便利な都市部は伸びが顕著です。

商業地も、コロナ禍で底を打った個人消費が持ち直して店舗需要が回復したほか、人出が戻りつつある観光地も上昇しています。

経済の回復は望ましいことですが、相続税対策の観点からは、地価の上昇はそのまま相続税の負担の増加を意味します。現金は額面に対して10割評価なのに対し、土地は少なくとも7~8割、さらに宅地などであれば5割以下の額で評価されることが理由で、預貯金を土地に変える手法は定番の相続税対策といってよいでしょう。

しかし評価額の算定基礎となる地価が上昇トレンドにある中では、ただ現金を土地に換えさえすれば節税になるというものではありません。自宅として相続させることを考えるなら納税資金対策をしなければならないし、更地のまま何となく放置しているという土地は相続税評価額が宅地の数倍にも跳ね上がるため、地価が上昇している今のうちに売却するか、もしくは何らかの建物を建てるなどの相続税対策が急務となります。

例えば地価が上昇トレンドにある土地を相続させるつもりなら、納税資金対策が急務となります。地価上昇を最大限に生かしたいなら不動産投資や賃貸物件としての土地活用を考えるのもありですが、自宅などで動かせず処分もできないというのなら、生命保険やその他の資産を多めに渡すことも視野に入れなければなりません。

また地価の変動幅が大きい土地を持ち続ける選択をした場合、遺産分割の際の相続人間のバランスにも注意を払う必要があります。例えば後継者である長男には全自社株を引き継ぐ一方で、次男には不動産を相続させることでバランスがとれていたはずが、不動産の価値が下がれば、次男の不満のもとになりかねません。自社株を分散させたくないのであれば、それに代わる現金や生命保険などを用意しなければなりません。

覚えておきたいのが、来年4月から相続土地の登記が義務付けられることです。相続不動産の取得を知ってから3年以内の登記を義務化するもので、正当な理由がないのに怠れば10万円以下の過料が科されます。法改正前にさかのぼって発生した相続もすべて対象となるため、これまで使う当てがないなどの理由で「なかったもの」としている土地のすべてが、来年には登記を求められるようになります。それに伴い、管理責任や固定資産税などのランニングコストが必然的に発生します。

「相続土地国庫帰属制度」の利用を含め、処分するにせよ残すにせよ登記の義務化で生じる新たな負担への備えは必要になります。

かつては土地を使った相続対策といえば賃貸物件を建てるという考えが普通でしたが、人口減に伴い需要が減少し、都市への一極集中が進む今、より賢く立ち回らなければ資産防衛もままならない時代が来ています。

 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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