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 有名人の離婚協議を巡ってワイドショーが報道合戦を繰り広げています。音楽プロデューサーの小室哲哉さんと音楽ユニット「glove」のKEIKOさんとの離婚が成立し、またプロ野球楽天の則本昴大投手がまさしく〝暴投不倫〟の末に昨年5月に離婚していました。そして「天才卓球少女」として一世を風靡した元日本代表の福原愛さんは不倫現場をパパラッチされ、離婚は秒読みの状態です。いまや2分に一組が離婚している時代にあって、離婚調停で揉めやすい財産分与や慰謝料、税金の行方は誰もが気になるところです。

 いざ離婚となると、いわゆる離婚届を役所に提出する以外にも財産分与や慰謝料、養育費など、さまざまな手続きや問題が発生します。

 3年以上の別居期間を経て、19年間の夫婦関係に終止符が打たれた小室哲哉さんとKEIKOさんとのケースでは、慰謝料や財産分与を巡って話し合いが長期化しました。

 端を発したのが小室さんの不倫スキャンダルです。2018年1月に週刊文春が女性看護師との不倫疑惑を報じ、報道を受けて開いた記者会見で小室さんは芸能界からの引退を表明しました。その後、KEIKOさんに対して生活費を渡していなかったことなども明らかにされました。

 調停に入ってから両名とも家裁に出廷しましたが、顔を合わせることはなかったと言います。長期化した調停の争点となったとされる金銭問題については、小室さんがKEIKOさんに対して慰謝料や相応の財産分与を行うことで決着したとされます。

 この場合、慰謝料についてみてみますと、慰謝料は、家庭内暴力や浮気などで離婚原因を作った人が、精神的苦痛などを受けた相手方に支払う「損害賠償金」です。損害賠償金は贈与税ではなく所得税のカテゴリーで扱われ、所得税法上、非課税となります。

 一般的な離婚では200万円から400万円程度が慰謝料の相場となりますが、例えば小室さんは楽曲提供などの印税で年間1億円以上の収入があると見られており、2千万円から3千万円の慰謝料が支払われることになると報じられています。

 小室さん同様に元卓球日本代表の福原愛さんの不倫報道が取りざたされています。別居中とはいえ、不倫報道が報じられてしまった以上、離婚協議は福原愛さんに不利になる可能性が高いでしょう。

 「無償の財産移転」ともいわれる財産分与についても当然のことながら離婚調停でこじれやすくなります。財産分与は離婚時に、夫婦の協力で築いてきた財産を2人で分け合うことをいいます。もともと2人の共有財産だったものを分けることになるので、一般的に財産をもらう側には所得税も贈与税もかかりません。これは離婚に伴う財産分与は離婚中の夫婦が協力して得た共有財産の精算であり、資産の贈与には該当しないという考え方によります。

 しかし「通常必要と認められる範囲」を超える慰謝料については、その超えた部分が贈与税の対象となってきます。つまり分与された財産が過大であると税務当局に判断されると、その多すぎる部分に贈与税がかかるということになります。

例えば、妻が浪費していたにもかかわらず、相当な高額を受け取った時は、浪費した分など不合理な支出を持ち戻して分与額を考えなければなりません。また離婚の目的が贈与税や相続税を逃れるためであると判断されると、課税されることもあります。

 このように課税対象となる事を阻止するため、財産分与が過大でないことや、税金を逃れるための離婚ではないことなど、協議の経緯などを証拠として残しておく必要があります。

 子供がいる場合の養育費についても慰謝料と同様に非課税です。所得税法第9条第1項15において「学費に充てるため給付される金品及び扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品」は所得税の課税対象にならないとあります。つまり所得税も贈与税もかかりません。

 財産分与として不動産をもらう場合には、登録免許税や不動産取得税がかかってきます。仮に夫名義の不動産を丸ごと分与されるとしても、妻の「潜在的持分」を1/2とみなし、残り1/2に移動があったものとして不動産取得税がかかります。

 財産を渡す側は、分与した財産が不動産で分与する場合には、時価で売却したものとして譲渡所得税が課せられます。これは「財産分与義務」という経済的利益を享受したものと考えられているからです。もらった側ではなくあげた側に課税されるのが離婚税務の特徴です。

 離婚する前か後かで控除特例の境界線が違ってきます。離婚によって「赤の他人」になることで、夫婦間の譲渡では適用できない税の特例が使えるようになるからです。

 例えば離婚することで自宅を財産分与すると、配偶者をはじめとする親族への譲渡では適用できない「3千万円控除」が利用できるようになります。しかし、3千万円控除は「居住しなくなってから3年を経過した年の年末」までの譲渡に適用されるものであるため、住まなくなってから数年が経過した不動産には特例が適用できないこともありえます。そして売却する不動産が所有期間10年超であれば「軽減税率の特例」も利用できます。

 しかしこれらは、あくまでも離婚手続き後に分与することが条件で、法的に離婚が成立していなければ「夫婦間贈与」になるためこれらの特例は適用できません。

 一方、離婚直前までは、いくら心が離れていても法律上は「夫婦」であるため、贈与税の配偶者控除が利用できます。20年以上連れ添った夫婦間で居住用不動産やそれを取得するための資金の贈与があれば、1回に限り2千万円まで贈与税がかかりません。贈与税の基礎控除額110万円と合わせると非課税枠は2110万円ということになります。「あげた側」にとっては経済的負担の多い離婚税務ですが、これらの「夫婦特例」と「他人特例」を上手に組み合わせることにより、離婚時の財産分与に伴う税負担を極力抑えられます。

 離婚における居住用不動産の財産分与については、婚姻中に購入した家がどちらか一方の名義になっていても、夫婦の共有財産とみなされます。一方、結婚前から所有していた持家については、財産分与の対象にはなりません。(民法第768条、762条)

 居住用不動産を財産分与する場合、離婚前に相手側に2110万円の範囲内で贈与しておき、超える部分の持分については離婚後に「3千万円控除」を適用すれば最大5110万円の税優遇を使えます。

 そして会社経営者にとって最大の離婚リスクは、事業用の資産が財産分与の対象になる事です。離婚時の財産分与では原則半分ずつ分けることとされていますが、離婚によって元妻に自社株を渡してしまいますとその後の会社経営に支障をきたします。

 いつから事業を始めたかによって財産分与の対象が違ってきます。婚姻前から事業を営んでいた、あるいは相続により自社株や事業用不動産を取得したのなら、事業用資産は財産分与の対象から外れますが、婚姻中に起業し、離婚時まで経営を継続しているケースでは話が複雑になります。これらの防止策のため、「自社株は経営者側の特有財産」として夫婦間で合意し、「自社株は離婚時の財産分与の対象外とする」といった合意文書を作成しておくべきでしょう。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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