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 税務書類の保管ルールを一新する改正電子帳簿保存法が今年から施行されましたが、電子データによる保存が間に合わない事業者に向けて、国税庁は「令和5年12月31日までに行う電子取引については、保存すべき電子データを書面に出力して保存し、税務調査等の際に提示又は提出ができるようにしておいていただければ差し支えありません」と猶予を認めています。ドタバタした改正ですが、この改正により、令和5年度の税務調査からは、帳簿書類の〝全開示〟が有無をいわさず要求されることになりそうです。改正法では電子帳簿による保存が容易になった一方で、原則として税務職員が要求するすべてのデータのダウンロードに応じなければならなくなります。一部でも拒否すれば青色申告の取り消しなどの罰則が科されることもあるといいます。「本来開示する必要のない情報まで国に収集される可能性がある」と懸念する声が上がっています。

 国税に関して企業に保存が義務付けられている帳簿や書類のことを国税関係帳簿書類といいます。損益計算書や貸借対照表といった決算書や元帳などの帳簿、さらに請求書や契約書なども含まれます。保管に当たっては税務上では紙にすることが原則ですが、電子帳簿保存法によって一定条件の下で電子データでの保存も認められています。これにはパソコンで作成したデータのみならず、紙の資料をスキャナで読み取ってデータ化したものも含みます。

 今まではデータ保存するには、改ざんが生じないようなチェック体制を備えるなど一定の条件を満たしたうえで、税務署長の承認を受けなければなりませんでした。

 そこで今年から施行されている改正法では、事業者の電子帳簿保存への移行を足踏みされていた様々な要件が緩和され、税務署長への事前承認が不要になり、さらに紙の資料をスキャンして電子データ化するために必要とされていた適正事務処理要件が撤廃されました。

 そこで問題となるのが、税務調査における質問検査権です。つまりは電子データ化した国税関係帳簿書類について、税務職員に際限なくダウンロードできる権限が与えられるため、税務調査時に本来開示する必要のない情報までもが国に収集される可能性です。

 これまで国税当局は、国税通則法74条の2「質問検査権」に基づく税務調査時の帳簿書類の開示請求については、納税者の理解と協力を得ることを前提としていました。国税庁が公開する税務調査手続きに関するFAQでも、「強権的に権限を行使することは考えておらず納税者の理解と協力の下、その承諾を得て行う」としてきました。しかし今後は実質的に調査官の質問検査権が強権化され、国税関係帳簿書類を電子データで保存する事業者は税務職員が要求するあらゆる情報を開示しなければならないということになります。

 去年7月に国税庁が発表した通達によりますと「職員の求めの全てに応じた場合」に限り、電子データの提出があったとみなすとしています。つまり税務職員は事業者に対して、有無を言わさずあらゆるデータをダウンロードして持ち帰ることができるようになるということです。

 ダウンロードを一部でも拒否すれば、電子データは国税関係帳簿書類とみなされないことになり、法人税法127条が定める罰則規定により青色申告書の法定要件を満たさないと判断され、各種税制優遇措置を受けられる青色申告の承認取消などの罰則が科される可能性があることになります。また国税通則法は「正当な理由なく」資料の提出を拒否した場合に、1年以下の懲役または50万円以下の罰則を科すとも定めています。

 なお電子帳簿保存法が定める「優良な電子帳簿に関する要件」を満たす事業者であれば、質問検査権に基づくダウンロードの要求に必ずしも応える必要はありません。しかし優良電子帳簿と認められるためには事前に税務署長の承認を得る必要があり、電子データの訂正・削除の履歴が参照できたり、データ内容を2つ以上の条件を組み合わせて検索出来たりといった機能を拡充しておかなければなりません。そうした付加機能のある会計ソフトを導入すれば対応できますが、そもそも固定資産台帳などの一部の帳簿は会計ソフトで管理していないところも多くみられます。

 紙で国税関係帳簿書類の管理を続ける事業者も今改正の例外ではありません。これまではメールに添付されたPDFファイルなどの請求書であれば紙に出力して保管しておくことができましたが、今年からは電子データを印刷して保存した書類は国税関係帳簿書類として認められなくなります。つまりメールで受け取った請求書などは事業者の意思に関係なく電子データで管理しなければなくなり、もれなく税務調査でダウンロードを要求されることになるでしょう。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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