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資産家の最大の悩み事といえば相続です。遺産分割、事業承継とトラブルの種はいくらでもあるにもかかわらず、その税務処理を巡っては国税当局とトラブルになってはたまりません。そこで国税不服審判所が公表しています裁決事例より、事例を抜粋してみました。

少しでも参考になるべく抜かりない相続対策をお願いしたいものです。

 

~貸家の空室部分の評価減~

 請求人等は、相続財産である貸家について、賃貸の意図をもって経常的に維持管理を行い、賃借人の募集業務を継続して行っていることなどを理由に、相続開始日において現に賃貸されていない各独立部分は、財産評価基本通達26<貸家建付地の評価>の(注)2に定める「課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」に該当するから、同通達に定める賃貸割合を100%として、本件各貸家及びその敷地を評価すべきである旨主張する。

しかしながら、相続税法第22条<評価の原則>に規定する時価とは、相続により財産を取得した日における客観的な交換価値をいうことからすれば、各独立部分を有する家屋の全部又は一部が貸し付けられているかどうかについては、課税時期の現況に基づいて判断するのが原則である。その上で、同通達26の<注>が、例外として、賃貸割合の算出に当たり、賃貸されている各独立には、継続的に賃貸されていた各独立部分で、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるものを含むこととして差し支えない旨定めているのである。

本件各独立部分については、相続開始日の前後の空室期間は、最も長いもので8年間、最短のもので4ヶ月を超える期間に及んでいることから、「課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」に該当しない。したがって、同通達に定める賃貸割合を100%として、本件各独立部分及びその敷地を評価することはできない。

 

貸家建付地の評価方法を定める評価通達26(2)(注)2には、「課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるものを含むこととして差し支えない」という定めがあり、貸家の評価方法を定める同93も同様ですが、要するに「一時的な空室であれば賃貸しているものとして評価減をして良い」という取扱いがあります。

この「一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」の解釈については、国税庁タックスアンサーなどで、次のような事実関係を例示しています。

❶各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものであること
❷賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、空室の期間中、他の用途に 

供されていないこと
❸空室の期間が、課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど、一時的な期間である

  こと
❹課税時期後の賃貸が一時的なものではないこと

 

これらは例示ではあるものの、❶から❹以外に新たに想定される事実関係に乏しく、事実上は❶から❹を全て満たす場合にのみ該当するとの運用になっているようですが、税務争訟で論点となるのは、客観的に把握可能な❸の空室期間の取扱いであることが多いです。

過去の裁判例でも「〇年〇か月は『一時的』でない(である)」といった判断がなされ、それが税務雑誌に取り上げられて実務家が百家争鳴しているのですが、そうなる原因の1つとして、国税不服審判所が過去に「1か月程度」を超えた空室期間でも一時的空室であると許容して課税処分を取り消す裁決を出していることが挙げられると思います。

具体的には、高松国税不服審判所と国税不服審判所沖縄事務所において、「1か月程度」を超えた空室期間でも一時的空室であると許容した裁決を過去に出していますが、その一方、「1か月程度」の基準を厳格に適用して一時的空室ではないとして審査請求を棄却した裁決もあります。

 

 この判例においては、最も長いもので8年間、最短のもので4ヶ月を超える期間に及んでいることから評価減が認められなかったことになりますが、2022年問題に加え、人口減少も相まって賃貸経営が更に難しい時代に突入すると想定され、税理士としては賃貸物件の評価減の該非を判断する機会も増えるのではないかと思われます。

 

 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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