1645632_m

~遺産分割ができる状態であるか否か~

 

請求人等は、本件相続にかかる財産が本件相続にかかる申告期限の翌日から3年を経過する日(本件申告期限3年経過日)までに分割されなかったことにつき、租税特別措置法施行令<平成22年3月政令第58号による改正前のもの>第40条の2(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)第11項の規定により準用される相続税法施行令第4条の2(配偶者に対する相続税額の軽減の場合の財産分割の特例)第1項第4号に規定する「税務署長においてやむを得ない事情があると認められる場合」に該当する旨主張する。

しかしながら、同号に規定する「税務署長においてやむを得ない事情があると認められる場合」に該当するか否かは、相続にかかる財産が当該相続にかかる相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日において、客観的に遺産分割ができないと認められる状態にあったといえるか否かにより行うことが相当であるところ、本件申告期限3年経過日の前に本件相続にかかる共同相続人の範囲や本件相続にかかる遺産の範囲は確定していたことが認められ、また、請求人等の遺産分割協議において協議された事項は、

①別件第一次相続により取得した預金の一部にかかる返済の問題

②本件相続にかかる遺産の内賃貸不動産からの収入の精算等の問題

③本件相続にかかる代償金の額の問題(本件相続にかかる代償金の額の決定に当たり、その対象不動産の評価額は算定されていたにもかかわらず、当該価額に納得しない者がいた)

であったと認められる。そうすると、本件においては、本件申告期限3年経過日において、客観的に遺産分割ができないと認められる状態にあったとはいえないから、本件申告期限3年経過日までに分割されなかったことにつき、同号に規定する「税務署長においてやむを得ない事情があると認められる場合」には該当しない。

 

相続開始から10カ月以内に行わないといけない相続税申告において、相続人間での遺産分割が完了していないと使えない特例があります。申告期限までに遺産分割が間に合わない場合には、申告期限内には一旦、特例を使わずに未分割の状態で申告をしておいて、分割がまとまった時点で、特例を使うという方法があります。
 但し、この特例を使う期限を延長するためには、相続税申告の際に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておく必要があり、この書類さえ提出しておけば、ほぼ無条件に3年以内であれば特例の使用が認められます。

但し、遺産分割が3年を過ぎてもまとまらないような場合には、さらにこの特例を使える期限を延長する手続きが存在します。それが「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」です。この申請は無条件で認められるわけではなく、タイトル通り、あくまで“やむを得ない事由がある場合”にのみ認められます。

本件においては、その〝やむを得ない事由〟に該当するか否かが争われました。

やむを得ない事由には、税務署長が遺産の分割や遅延についてやむを得ないと判断した例以外にも、大きく3つの事例が考えられます。

 

●相続などに関しての提訴がある
相続に関して提訴があるということは、まだ分割について十分な協議が行われていない状況であるということです。分割は司法判断が確定した、または訴えが取り下げられた場合でないとできませんので、やむを得ない事由のひとつとして挙げられます。

 

●和解や調停の申し立てがある
すでに訴えによって和解や調停の申し立てがある場合も、やむを得ない事由となり得ます。遺産の分割に向けて手続きが進められていると前向きな判断が行われるためです。分割は、和解や調停が成立することで行えるようになります。

 

●民法により遺産の分割が規定されている
民法により遺産の分割が規定されている場合というのは、被相続人が期間を定めて遺産の分割を遺言によって禁止している場合です。たとえば、学業に専念させるために子への遺産分割を一定の期間禁止するなどが該当します。同様に、民法によって遺産相続の承認や放棄が延長されている場合もやむを得ない事由と判断できます。

 

申告期限後3年以内に遺産分割が未分割であり、やむを得ない事由と認められるのは、ご紹介したように、相続税法施行令の第四条の二などに定められている事由である場合など、一部の事由に限られます。裏を返せば、やむを得ない事由と認められるような内容であれば、申告の期間を延ばすことも可能だということです。

しかし、申請の承認については、やむを得ない事由であってもすべてが許可されるとは限りません。例えば、裁判や調停などをせず、ただ単に争っていて話し合いが進んでいないと言った状態では、この“やむを得ない事由”には該当しません。

ただし、一度承認されなかった場合でも、不服申し立てを行うことは可能ですので、申告後にも特例を受けられるためのひとつの手段として頭に入れておくと良いでしょう。

 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

「所長の独り言」一覧はこちら

 

免責
本記事の内容は投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談の上行うか、十分に内容を検討の上実行してください。当事務所との協議により実施した場合を除き、本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。また、本記事を参考にして訴訟等行為に及んでも当事務所は一切関係がありませんので当事務所の名前等使用なさらぬようお願い申し上げます。