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 放送中のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、歴史上最も有名な源頼朝と義経の兄弟喧嘩が展開されました。見事に平家を滅ぼした弟の義経が、あまりに強すぎるが故に兄・頼朝に警戒され、鎌倉入りを拒まれてしまいます。この後、後白河法皇に頼朝討伐の命を受けますが、法皇が義経を裏切り、逆に義経討伐を頼朝に命ずることになります。平家滅亡に陰ながら尽力していた弟の範頼も謀反を疑われ伊豆に流され殺されてしまいます。

 このような修復不可能な状況に陥りやすいのが、相続時の兄弟げんかと思われます。どんなに仲の良い兄妹であっても、それぞれ家庭を持てば、いろいろなしがらみがついて回ります。妻から「あなたはいつも我慢してお儀兄さんにばかりいい思いをさせて…」と小言を言われることもあるでしょう。一方の長男にしても、「いつも弟に譲ってばかりいて」と言われることもある。これに資産が絡めばなおさらです。頼朝の兄弟たちも周囲がなにかと騒がしくなることで、次第に兄弟の関係がややこしくなっていきます。

 ではそうならないために何をするべきか、相続で揉めないための唯一の手段は、「生前の話し合い」しかありません。親としても子供たちが円満に相続できるに越したことはありません。しかし子供たちの生活スタイルや資産状況は必ずしも固定したものではなく、余命数ヶ月といった切迫した状況にない限り、将来にわたる決め事は難しくなります。様々な理由から「また今度」と先延ばしをしてしまうことがほとんどです。一定スパンごとに上書きをする遺言書という手段もありますが、決して万能ではありません。

 一方、「将来いつか揉めるかもしれない」と子供側が主体性をもって親に相続問題を持ちかけることもあります。しかしこれは親が持ち出す以上に困難な試みです。自宅の土地建物以外の資産を聞いてみても「まだ大丈夫」「きちんと考えている」とはぐらかされてしまいます。愛人がいて、さらに隠し子がいるということになれば兄弟の喧嘩がさらに拡大し、泥沼化することになるのは目に見えています。

 こうして有効な話し合いの場が持てないまま、「いざ」というときが訪れてしまいます。そして必ずと言っていいほど〝争族〟が発生します。

 この場合、遺産分割がまとまらなければ、家庭裁判所で調停を頼むことになります。相続開始から10ヵ月を超えることもありますから、とりあえず相続税は未分割で申告することになります。

 家裁の調停は7割が1年以内に終了しますが、まとまらなければ次は裁判となります。

 裁判になれば、大抵は民法の規定に則った裁判官の杓子定規な判断で均等配分となります。そこには情状の配慮などほとんどありません。現預金も不動産も区別なく同じ資産とされ、揉めた挙句に「半分ずつです」と言われてしまうとこれまでの苦労は何だったのかと脱力感を味わう人がほとんどです。

 生前にできる相続対策として非常に有効とされるのが遺言書の存在です。遺言の内容に不満がある法定相続人は遺留分減殺請求ができるため、100%被相続人の思い通りになるとは限りませんが、「ピンポイントで遺す」という一定の目的には効力を発揮します。

 確かにそれは被相続人の思いを形にするための法的拘束力を有し、相続人以外の愛人に財産を残すときや、最もかわいがった末っ子の分を手厚くするときなどに重宝しますが、決して万能ではありません。被相続人が「子供たちが揉めないように」という親心で遺言を残したときは、これが逆効果になる事が多いからです。兄弟の力関係でなんとなく収まる形になっていたものが、余計な割り振りによりかえってギクシャクしてしまうこともあります。

 死を連想する相続は、口にすることすらタブー視される傾向はいまだにあります。それでも、生前の話し合いが遺言書の何倍も力強く、相続対策としての効果を発揮します。親が残した財産が元で兄弟喧嘩を繰り広げるのは、とてつもない不幸です。残す側の問題としての認識をしてもらいたいものです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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